ドローン墜落


年度末のせわしい時期に、大きな失態をしでかしてしまい、研究室に多大な損害と迷惑をかけてしまった。私は、今年開山1300周年を迎える倉吉の打吹山長谷寺(天台宗)のパンフレット作成に関わっている。その関係で、卒業予定の4年生二人に研究室のドローンによる空撮をお願いした。ところが、3月4日の撮影中に突然プロペラの回転が止まり、ドローンが墜落・大破してしまった。現段階で修理が可能か不明である。
国英神社と長谷寺
長谷寺の空撮を思いついたのは、研究室が1月27日のゼミ活動で鳥取市河原町片山に鎮座する国英神社での演習を見学したときまで遡る。全面オンライン授業に揺れ戻ったなかで唯一回おこなわれた全体ゼミであり、(密を避けた)屋外での開放的な場所で、4年生が3年生に測量機材やドローン等のスキルを伝授するため敢えて実施したものである。
国英神社と倉吉の長谷寺には因縁がある。国英神社に伝わる梵鐘(県保護文化財・県博所蔵)の銘文に「正安三年(1301)」の紀年銘と「伯州久米郡長谷寺鐘」などの銘文が刻まれおり、もとは長谷寺の梵鐘だったことがわかっている。長谷寺から国英神社に移動した経緯や時期は不明ながら、長谷寺の歴史を考えるうえで欠くことのできない第一級の史料と言える(↑右)。
国英神社は、霊石山(標高326m)の南裾部に位置し、最勝寺(真言宗)とも近い位置関係にある。神社のすぐ前には八東川が流れ、境内地は狭い。立地環境から神社の全景を画像におさめるのは不可能に近い状況だったが、ドローンによる空撮は神社の全景を撮影できるとともに地形の特徴なども把握でき、その有用性に改めて感心した。演習を見学していた私は、打吹山の中腹、急斜面に立地する長谷寺をドローン撮影すれば、建物配置や立地環境など、地上からの観測では見えないことも見えてくるのではないかと思った。また、梵鐘での接点しかない長谷寺と国英神社であるが、空撮画像をとおして得られる情報は多く、そこから見えてくるものもあるのではなかろうかとも考えた。

長谷寺本堂周辺の空撮
長谷寺の本堂(県保護文化財)は、急斜面を造成した平地と法面に建つ懸造(かけづくり)で、瓦葺き寄棟の五間堂である。平面的には中世仏堂の特徴をもつが、幾度か修理されており、建立年代や変遷について不明な部分が多かった。この問題にメスを入れたのがASALABだった。2013~14年度に大学および県環境学術研究費の助成を受けて「近世木造建造物の科学的年代測定に関する基礎的研究」に取り組み、その一環として長谷寺本堂の建築部材の年代を測定している。その結果、本堂は15世紀に再建され、天保年間(1830~43)に大きな改修を受けていることが判明したが、寺に一点だけ残る巻斗の古材の年代が国英神社所蔵梵鐘の年代を含む13世紀末~14世紀前半であることも明らかになった。この巻斗は杉材であり、現本堂部材(主に広葉樹)の材種とはまったく異なり、サイズも小さめなので、常識的には、現本堂の古材ではなく、前身建物の材と考えるべきである。


国英神社での演習を見学して、私は軽率な行動を起こした。教授に相談することはしたが、教授の意向を無視する形で事を進めてしまったのである。教授としては、もとより3月中旬以降のスケジュールを想定しており、せっかくの良い機会なので、ドローン操縦に3年生を2名程度巻き込んで来年度につなげることを考えられていた。それを無視する形で、すでに卒論を提出した4年生と話し合い、教授や3年生に連絡することもなく、3月4日の10時に日時を設定し、空撮を実行してしまった。
当時の天候は晴れで、無風に近い状態だった。お寺さんに挨拶し、仁王門の前からドローンを飛ばす。朝の10時であり、逆光気味だったが、仁王門と本堂と周辺の地形を空撮した。その後、本堂の南側、斜面の下からドローンを飛ばし、本堂と周辺の状況を撮影する。数カット撮影後、ドローンを下降させる途中にプロペラが突然停止し、コンクリート舗装の道路面に墜落し、バッテリーが外れ、取り付け直すことができなくなってしまつた。バッテリーの残量を確認すると60%あり、原因はよくわからなかったが、ドローンが飛行した近くに電線があり、それが悪さをした可能性が考えられた。周辺の確認が不十分だったと思う。
今回の事故は、私の短絡的な思い付きと、連絡不足、周辺の確認不足が招いたものである。深く反省し、おおきな損害を負うことになった研究室に対して深くお詫び申し上げます。(会長)


研究室側からのコメント
3月4日(木)の午前11時ころ、会長から電話があり、「ドローンが墜落しました」との報せを受けた。以前から嫌な予感がしており、果たして結果は最悪なものになった。上の文章では、「教授に相談することはした(下線部分)」と書いてあるが、当方にはそういう感覚がほとんどない。会長から2名の4年生に声かけがわたしの頭越しにあり、当たり前のようにしてドローンによる空撮を依頼していたのをぼっと聞いていた。それがなんのためのどの場所での撮影なのかが確定的に分かってきたのは、2月22日の南部町調査のころだったと思う。そのときは、私自身も参加する気持ちがあり、3月中旬を希望していたのだが、3月1日に突然、「ドローンによる長谷寺の撮影ですが、N君と協議し3月4日午前10時からお願いすることになりました」というメールが入った。わたしはそのころ、むしろ3年生若干名を巻き込み来年度につなげるという構想を抱き始めており、その旨、返信したのだが、以後、何の連絡のないまま、撮影当日を迎え、電話口から「墜落」の報告を受けたのである。
どういう気持ちから4年生を一本釣りのようにして労働させる気になったのか知らないが、ドローンは公費購入した大学の備品であり、管理者である私が不在の現場で飛ばすことはできない。厳密に言うならば、撮影依頼の文書が必要であり、現場に備品管理者のわたしが立ち会う必要がある。そうした手続きは一切省いて学生に作業を依頼すること自体異常なのだが、ひょっとすると、私が不在の方が都合がよいのだろうとも勘ぐっていた。3月1日にメールを受信した段階で、スケジュールと人員の変更を厳しく要求すべきであったと反省している。まもなく卒業する4年生はたしかにドローン空撮技術に長けているが、まもなくいなくなる人材を使って撮影しても意味はない。たとえ未熟でも、3年生に経験を積ませることで来年度の光明がみえてくるはずだった。
3年生が操縦するほうが落下する危険性は高かったのではないか、という意見もあるだろう。しかし、墜落事故を起こしたとしても、3年生の方が良かったのである。なぜならば、学生保険が使いやすい。4年生の場合、すでに演習も卒論も終わっており、何のための空撮かと問われた場合、説明が難しい。3年生なら、来年度の演習と卒業研究のための空撮だという説得力のある回答が可能なのである。今回、学務課の担当者が上手な対応してくれたので、なんとか保険は動きそうだが、もちろん修理代(もしくは新規購入代)の全額保証などありえない。すでに年度末の経費消化計画の〆切は過ぎており、頭の痛いところである。
今回墜落したドローンは、昨年新規購入したばかりの Parrot ANAFIドローン ウルトラコンパクト 4K HDR カメラPF728005 である。コンパクトで性能の高いドローンであり、秋田の調査でも大活躍したが、その秋田で素晴らしい写真を撮影した4年生の操縦による墜落というのだから残念きわまりないところである。
今後は、誰に頼まれようと、わたしが立ち会う現場以外の空撮は認めません。ドローンだけでなく、大学の備品を使う場合、こうする以外にない。わたしは墜落したこと自体を責めようとは思っていない(古いドローンは2回墜落している)。来年度以降の研究室活動を視野におさめて動こうとする意向を無視された結果として、こういう事態を招き、ひどく不機嫌な3日間を過ごしている。散歩で少々元気になった体が不調に傾いてきた。(教師)