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なぜ新刊書は建築系の図書ではないのか

 新刊書『能海寛と宇内一統宗教』については、多くの方々から感想のメールを頂戴しています。おおむね(お世辞かもしれませんが)好意的な評価をしていただいていますが、一部には「なぜこんなに建築史の論文が少ないのか」という質問や、「建築史研究者としてあやういところに踏み込んでおられるよう」というような感想もありました。これに対して、少し悩みましたが、私の返答を以下に公開しておきます。

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 私はもともと自分のことを建築史研究者と思っているわけではなく、本来学びたかった文化人類学の分野に原点回帰しようとしているだけのことです。どういうわけか、五十代後半より自分の最後の研究課題は「チベット仏教」だと思っていて、今に至ります。その途中で、チベット・ブータン学の大家、今枝先生に出会ったのが大きかった。先生は、フランスの高等研究機関で40年間、チベット学に携わり、ブータン王立図書館の設立にも尽力されました。仏教に係るあらゆる言語に精通されており、1~2年に一度、岩波文庫や岩波新書の類を出版されています。こういう大家が本書の前言を書いてくださった。本書の前半はすべてお読みいただいているので、私の書いたことに大きな間違いはないと思っています。
 いま取り組んでいることは、大学の組織改編からも影響されています。私立時代にあった建築環境デザイン学科は解体され、今は環境学部人間環境プログラムという緩い体制のなかにいます。建築をやりたいと思っている学生はほとんどいません。地理・文化・環境・地域振興に関心のある学生がほとんどであり、そうした学生の指向に教師も応えなければいけない。実際、本書の前半は、2年前の卒業論文であり、論文を書いた学生は本書の出版を大変喜んでいます。
 このたび多くの知人に献本しましたが、いちばん驚いたのは中国留学の同窓(某大学名誉教授)が、この一年の間、リンパ腫のため闘病生活を送っているのを知ったことです。かれは自分の余命が3年程度であることと悟っており、文筆活動に集中している。「著作集を出すのか」と訊ねたところ、「昔のことに興味はない。新しい論文を書くだけ」だと彼は答えました。見習わなければいけません。
 出版社は建築考古学の新刊書を書け、と言ってきますが、わたしはほとんど関心がない。知的な刺激が少ないからです。チベット・ブータン地域のことで、頭がいっぱいになっています。


ボノス0404

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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