fc2ブログ

四度目の大杉(2)ー学生レポート

1026大杉01集合A04いろり01 1026大杉01集合A04いろり02


めざすは移住か観光か

 兵庫県の北部に位置する養父市大屋町大杉地区は、但馬地域の中でも標高が高い大屋川の流域で古くから養蚕をおこなってきた集落である。耕地が少ない山間部の大杉地区では、江戸時代後期頃から養蚕や家内製糸を主とした産業が盛んになり始めた。明治時代には群馬県の養蚕教師により新しい養蚕技術や瓦葺の養蚕住宅が普及し、全国で見ても比較的早い段階から多くの器械製糸場が操業していた地域である。特に明治時代後期はその最盛期を迎え、大杉地区をはじめとする養父市内全域で木造三階建の養蚕農家住宅が広く普及した。養父市の養蚕業自体は平成3年で終了しており、現在は市の養蚕記念館でのみ蚕の飼育を伝承している。 しかし、大杉地区の特徴的な木造三階建養蚕農家住宅と谷川の水を生活に活かし
た集落の風景の歴史的・文化的価値が認められ、平成13年に兵庫県の歴史的景観形成地区、平成29年に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された。
  大杉地区の養蚕民家の多くは二階または三階建の木造建築で、切妻造と瓦葺の屋根が特徴である。より多くの蚕を飼育するため、もともとは二階建だったものを棟上げし、増築した痕跡が現在も残っている住宅がある。一階は居住スペース、二階・三階は蚕室として使われており、掃き出し窓と土壁によって温度と湿度を適切に保てる造りになっている。


1026大杉01集合A04いろり03


 大杉に暮らす建築家、川辺さんの話を聞いて、大屋大杉などの伝統的な日本家屋の雰囲気を壊さないようにしつつ、建築基準 法を守って一階天井(二階床)を骨組みだけ残して取り払うという設計がとても粋だと感じた。川辺さんは、日本の木造古民家の雰囲気をとても大切にしており、耐震の補修もその良さを損なわないように注意を払いながらおこなっていることがとても尊敬できると思った。私も自分の住む地域の文化に誇りを持って仕事を したい。
 養父市教育委員会の山根さんは、お話の中で何度も「伝える」「守る」という言葉を使われた。建造物としての三階建古民家だけでなく、古くからそこに住んでいた人々の暮らしや養蚕文化、さらに集落周辺の自然環境までも大切にしたいという思いが伝わってきて、とても素敵だと思った。山根さんたちのような昔を知る人が、私たちのような昔を知らない若者に文化や暮らしを継承していくことが、今の日本に必要な事のように感じた。


1026大杉01集合B03まちなか記念撮影01


1026大杉01集合A06養蚕農家01 1026大杉01集合A06養蚕農家02


 カールさんが竹所集落でおこなったことと、大杉地区の集落で川辺さんたちがおこなっていることは、どちらも「古い文化や伝統を大切にしながら地域を活性化させる」ことであるが、両者は手法が異なっているように感じた。竹所では、古民家を再生し、人々に移住してきてもらうことで、新しい住民を得ていくというプロセスである。対して大杉地区では、新しい住民を得るのではなく、主に古き 良き景観や文化を観光業として生かす手法をとっている。これには、大杉の木造三階建養蚕農家住宅が重要伝統的建造物に選定されたことがかかわっていると思う。竹所の古民家は、資材や建築技術こそ昔のものを用いているが、国が公式に文化的価値を認めているわけではなかった。そのため、改築工事を行うことも、そのあと個人の所有物にすることも比較的しやすかったと考えられる。しかし大杉ではそれが容易ではなく、住居に直接手を加えることは補修工事にとどめ、あくまで往時の状態を保つことをコンセプトとしているため、竹所に比べて観光に特化した地域活性化と言えると思う。


1026大杉01集合B02最後


 竹所では移住者が得られていたが、重要伝統的建造物の観光に特化した大杉では、将来性や持続性に不安があるように思ったが、散策の途中に(比較的)若い女性が河辺さん設計の「分散ギャラリー養蚕農家」を訪れていて、世間話と一緒に何か町の経営に関する話をしており、そういう人がいてくれることに少し安心した。また、古民家だけでなく、地域の芸術家の作品の展示即売会もおこなっているということで、地区全体で集落を盛り上げようと活動なさっていることを知り、地域の絆の深さやまとまりの強さのようなものを感じられるとても良い機会だった。大杉集落のような古きよき日本の情景が失われていくのはもったいないと思うので、直接何かできることを探そうとすると難しいけれど、こういう場所があるということを「知る」ことが出来て良かった。(TM)


1031カール02双鶴庵01 双鶴庵(竹所)

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

魯班13世

Author:魯班13世
--
魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カレンダー
09 | 2023/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR