Say 精鋭 Yeah!


NHKローカル「いろドリ+」
昨夕(2月3日)、NHKローカルの「いろドリ+(プラス)」という番組で「say 精鋭 yeah!」というシリーズに出演しました。6分ぐらいの特集ですが、うまく私の復元人生をまとめてくれて喜んでいます。以下のサイトに3ヶ月だけアップされるそうです。
https://www.nhk.or.jp/tottori/irodoriplus/details/irp220203.html
上のサイトの期限が切れた場合 こちら からDLできます。
ここは自らネタバレです。

まず大学の建築学科を経て奈文研に就職するのですが、発掘調査に戸惑ったことから特集は始まります。本音を吐露するならば、そもそも大学の建築学科に入学したときから、「ここは自分の居場所ではない」と感じていました。建築学科で学ぶこと自体に違和感があり、理学部か文学部に進めばよかったと後悔しきり。性同一障害の感覚もこんな具合なのかな、と建築学に対する適応障害で悩んでおりました。そこで大学院修了後、文科系の研究機関に居場所を変えようとしたのですが、発掘調査は不慣れで上手くならないし、モノにこだわる学風に対しても心底溶け込んでいくことはできませんでした。ただし、研究所の経験は大学院時代の十倍以上の重みがあり、優秀な先輩や同僚から刺激を受けたのも事実です。学恩ある方々も、この時代に集中しています。結果として、たまたま私のような人間が「建築考古学」で目立つようになってしまうわけですが、「建築考古学が本業ではない」と吐露すると、みんなに嗤われます。


こういう次第ではありますけれども、建築考古学に手を染めて30年以上が経過しており、それなりに自分の信念をもつようになっています。それは、今回のTV特集で強調したように、
復元に決定打はない
というスタンスです。だれもタイムマシンをもっているわけではないのですから、過去に遡って真実を確かめることはできません。どれだけ根拠を積み重ねて、できうる限り実証的な復元を心掛けたとしても、その復元案は往時の正しい姿ではない、と考えるほうが無難だと思います。にも拘わらず、全国の史跡上には復元建物が建設され続けています。復元建物が出現することで、オーセンティックな出土遺構をみることはできなくなり、根拠の乏しい復元案の一つが立体化され、国民のイメージとして定着していく。こうしたことから、私は復元事業をできるだけ避けて、研究軸を軌道修正していきました。

↑1988年、入所2年目です(31歳)。平城宮馬寮東方地区の推定「西池宮」現地説明会。初担当者をやった現場なんですが、家内はこの人物を私ではない、と言って譲りません。じつは、わたしが在職中から今も研究所にいる補佐員のマダムDさんも「これはWさん」だと言って譲りませんでした。私ですよ、間違いないの。Wさんは、まだ入所していません。こんなに細かったですよ。でも、東尿英機になってしまったから、場合によっては1年で25キロも減量するそうです。このころに戻っちゃうかもね。

情報は刻々と変わっていきます。発掘調査時の情報と報告書編集時の情報は異なる場合が少なくありませんが、基礎情報が変わっても、CG復元の場合、入力値を変えることで自在に対応できます。また、CGでベースとなる一案を作成しておけば、そのバリエーションの作成も容易になります。このようにして、多様な復元案を示すことが研究者の責務だと思うのです。「復元に決定案はない」ことを前提とするからには、自ら複数の案を示すほかなく、それらの案を諸条件の下で比較しつつ、どれがより相応しい案なのかを考察すべきでしょう。しかし、それだけの努力をしてなお、「正解はない」と考えなければなりません。

ディレクターとのやりとりで、最後に強くお願いしたことがあります。私はデジタルを不得手としています。パソコンでまともに使えるのはパワーポイントとメールぐらいであり、CADもCGも駄目です。手も足もでません。復元にCGを使おうとしたのは学生の活動に接してからです。とりわけ建築系の学科が存在した私学時代のゼミ生(今はOB)たちのおかげで、ここまで来ることができました。この点に必ず触れて特集を終えてほしいとお願いし、実際そのとおりの筋書きとなりました。ディレクターとゼミ生諸君には、改めてお礼申し上げます。
放送後、若干の反響がありました。市内在住の口悪オヤジは「実際より男前に映っとたで」と小声で呟き、最近頻繁に連絡をくれるゼミOBは「若いころはイケメンだったんですね」と驚く。余計なお世話だっつうの。嬉しかったのは女子学生2名からのメールです。我がゼミではありません。今年度後期授業の履修生です。一人(2年生)からは「半期演習に参加していましたが、こんな凄い方だとは思いもよりませんでした」、歴史遺産保全論で私の復元反対論をよく知る一人(3年生)からは「復元に決定打はない、という言葉が印象に残りました。復元案を作ってしまうと、満足してしまうように思いますが、それが本来のものとは限りませんし、完璧ではないと思います。絶えず、遺構と向き合うことで未来につなぐことができると思いました」という真面目なコメントを頂戴しました。二人とも、成績アップ間違いなし!
