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《卒論》荒金鉱山と岩井町営軌道-正・負の遺産の再評価とダークツーリズムの展望

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 こんにちは、天波活殺です。先生のご指導やゼミ生一同の協力があって、無事、卒業論文を完成させました。感謝の意を表したいと思います。どうもありがとうございました。以下、2/9(水)におこなわれた卒論web発表会の内容を報告します。

題目: 荒金鉱山と岩井町営軌道―正・負の遺産の再評価とダークツーリズムの展望
Arakane mines and Iwai municipal railroad tracks 
-Reevaluation of positive and negative heritages and the prospects of the dark tourism-  Hirai Kenshiro

中間報告3


研究の背景と概要

 近代産業遺産としての鉱山と公害は切り離せない関係にある。私が主題とする鳥取県岩美町の荒金鉱山や秋田県の小坂鉱山は環境問題で悩まされており、前者は汚水処理、後者は環境緑化に取り組んでいる。このように鉱山は、「負」の側面を際立たせている遺産の代表例である。たしかに、荒金鉱山は衛生工学的立場からみれば、評価は芳しいものではなく、「負」の遺産と考えざるをえないが、その一方で、鳥取県の近代化に貢献した重要な文化遺産としての意義、すなわち「正」の側面を軽視することもできない。本研究は、荒金鉱山及び鉱山と関わりの深い町営軌道の歴史と遺産の状況を精査し、文化遺産としての鉱山の再評価を試みるものである。


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荒金鉱山史略

 荒金鉱山の歴史は、古代にまで遡る可能性がある。奈良時代の正史『続日本紀』には「文武天皇二年(698)三月五日、因幡の国より銅鉱を献ず」という記載がある。この銅鉱が荒金鉱山のものであるという根拠はないが、荒金鉱山周辺の岩美町の銅山であった可能性はあると考えられている。たとえば、荒金近くの院内でみつかった広庭遺跡は、官衙の遺構とも推定されているが、荒金鉱山の近隣であることから、鉱山運営に関係する遺跡の可能性も指摘されている。近世に入ると、山に間府(まぶ)穴のある様子が『因幡志』(1795)に描かれており、古代から近世まで、採鉱は続いていていたようである。但し、本格的に採鉱が展開するのは近代以降のことである。
 明治30年に山添貞三が銅の露頭を発見し、荒金で採鉱が始まる。そこから堀氏の経営を経て、大正12年に鉱山は久原鉱業株式会社の手に渡る。ここから鉱山の繁栄期を迎える。しかし、昭和18年に鳥取大地震が発生し、65名の死者が出る。鉱山自体にも大きな打撃を加え、経済的な翳りがみえてくる。昭和32年、中国鉱山株式会社に経営権を譲渡し、そこから14年で閉山に至る。なお、鳥取大地震の前から、銅の産出量は減っていたようであり、中国鉱山の経営下では、設備、労働力の縮小の一途をたどっていった。


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荒金鉱山の生活

 鉱山隆盛期の昭和10年ごろの鉱山の生活や使用道具に焦点をあててみた。元来、鉱山の労働者は、周辺の農業従事者であった。岩美町だけでなく、八頭町や国府町などから働きに来ていたようである。鉱山で働く男たちは、法被(はっぴ)を着用し、パッチを穿いて作業していた。頭には手ぬぐいか鳥打帽を被っていた。大正12年に久原鉱業の経営に変わって、ようやく鉄帽が支給された。足下はもともと草鞋履きであったが、大正2年の堀鉱山時代に地下足袋に変わった。今年度の7月にゼミで荒金鉱山の見学に行った。その際には敷地内の造成土中に当時の生活用品らしき破片が埋蔵されているのを発見した。その後、詳細な遺物調査を準備していたが、コロナウイルス感染拡大等により実行できなかった。
 昭和15年頃から鉱山では、朝鮮人労働者が働いていた。朝鮮人労働者の飯場は決して良いものではなく、日の当たらない鉱滓置場の下に2~3軒建てられていた。トタン屋根で、窓には新聞紙を張り付けていたというから、スラムのような代物だったのかもしれない。同じ場所で働く者同士、日本人・朝鮮人の関係なく仲が良かったと言われているが、それはあくまで日本人側の記録である。昭和18年の鳥取大地震により、28名の朝鮮人労働者がお亡くなりになった。毎年9月10日には韓国の伝統的儒教式の祭祀(チェサ)に則った慰霊祭がおこなわれている。


チェサ(平井) チェサ



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荒金鉱山の近代産業遺産

 当時の事務所や作業場、さらに、鉱山町の建築系施設は地上に現存していない。しかし、上に述べたように、造成地の断面では鉱山稼働期のものと思しき遺物が目視された。これらの断面ないし地表面に残る遺物の観察を実施することは、廃絶した施設群の地下遺構の有無を確認するための予備調査となる予定であったが、前述のように、コロナ禍のため実施できなかった。よほどの攪乱(乱開発)がない限り、鉱山関係施設や鉱山町の遺跡が部分的にでも地下に眠っているはずであり、現在は「埋蔵文化財包蔵地」に位置づけられる。今後、トレンチ調査を実施し、地下遺構が確認されれば、「史跡」としての位置づけがより明確化するであろう。その史跡群と鉱山の自然景観の複合はまた「文化的景観」として評価されるべきと思われる。
 現在、敷地内に現存するのは、坑道以外では、岩井町営軌道に接続していたトロッコ軌道跡、鉱夫の信仰の対象であった山神社である。藪の中に隠れてしまった山神社もご案内いただく予定になっていたが、やはりコロナ禍のため中止となった。鉱山隆盛時には、「山神祭」と呼ばれる山神社の祭りがあり、相撲や映画(活動写真)の会などが催され賑わっていた。
 坑道は見学可能である。終着地点では、往時の坑道の様子を観察できる。坑道中央の水路を流れるのは汚染水であり、この水を貯水槽に溜めて浄化し、排出する。これはほぼ永遠に続く汚水処理の仕事である。現在、荒金鉱山自体は、山陰海岸ジオパークの観光資源の一つとして、坑道内を見学できる状態ではある。


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岩井町営軌道の歴史

 岩井町営軌道の歴史は大正14年(1925)に始まる。翌年には運行を開始し、運行当初は旅客のみの送迎であったが、同年の4月に鉱石の運輸にも手をひろげる。昭和3年には、付帯事業として自動車事業を蒲生地区で始める。昭和9年には大火や水害に見舞われ、軌道が流されるなどの被害も発生し、営業をいったん停止するが、その2年後に営業を再開する。
 しかし、昭和19年(1944)、太平洋戦争下での企業整備により、運休になる。事実上の廃業ある。岩井町営軌道は「町営」という建前であったが、久原鉱山の出資を受け、鉱石の運搬も担っていたことから、久原鉱業が運営の主導権を握っていた。


スライド6(平井) 
真名トロッコ跡(平井) 恩志駅跡(平井) スライド6+真名トロッコ跡+恩志駅跡
 

町営軌道の現状

 2021年7月の調査では、平坦地に遺構は現存していなかった。JR岩美駅近くに石碑が建つのみである。軌道は「およし道路」と呼ばれる県道164号線の北側を走行したが、土地利用の痕跡は認められるものの、レール跡は残っていない。町営軌道に接続していたトロッコ跡は荒金鉱山敷地内に確認でき、トロッコ軌道跡は山中に比較的長い範囲で残存している可能性が高いと考えられる。当時の駅舎も残っておらず、岩井温泉駅があった場所は日本交通のバス停になっている。このようにほぼ遺構が残存していない理由については、大火や水害などの災害の影響による流出、道路改修に伴う撤去、戦中の金属類の供出の可能性が高いと思われる。


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スライド7+4枚
30号棟(平井) 強制労働(平井) 佐渡相川(平井) 宗太夫坑(平井)


鉱山遺産の再評価-保護のバリエーション

 町営軌道トロッコ跡を含む荒金鉱山の保護対策を考えるため、まずは国内で文化財指定を受けている鉱山を調べた。
 栃木県の足尾銅山は古河財閥により開発がすすめられた。開坑は1550年、閉坑は1973年である。足尾銅山鉱毒事件も日本最初の公害事件としてよく知られている。2008年、坑道・製錬所跡などが国の史跡に指定されている。
 兵庫県朝来市の生野銀山は、807年に開坑、1973年に閉坑している。明治政府・三菱などが運営していた。2014年にトロッコ跡や鉱山町の町並みなどが「生野鉱山及び鉱山町の文化的景観」として国の重要文化的景観に選定されている。
 島根県大田市大森町にある石見銀山は、1526年に開坑、1943年に閉坑している。運営にあたっていたのは江戸幕府、藤田組などである。江戸時代に隆盛期を迎え、ヨーロッパ、東アジアなどに銀を輸出した。2007年に「石見銀山遺跡とその文化的景観」として世界文化遺産に登録された。
 長崎県の軍艦島(端島 はしま)は2015年に「明治日本の産業革命遺産」として世界文化遺産に登録された構成要素の一つである。島内の建造物は崩壊の一歩をたどっており、景観が良好とは言えないが、廃墟としての迫力はあります。三菱財閥などに所有されており、開坑は1890年、閉坑は1974年である。ご存じのように、登録前後より、韓国から軍艦島における朝鮮人労働者の酷使に対して抗議が続けられている。
 佐渡鉱山(金山)は、明治政府・三菱財閥などにより開発され、繁栄を極めた。開坑は1601年、閉坑は1989年である。1994年には宗太夫坑や南沢疎水道などが国の史跡に指定され、2015年には相川の鉱山町を含めた景観が国の重要文化的景観に選定されている。朝鮮人労働者の酷使があったとする韓国の抗議を押し切り、今年1月末、2023年の世界遺産登録を目標にユネスコに推薦する方針を固めた。


スライド8(平井) スライド8


正・負の価値を併せ呑む-ダークツーリズムの展望
 
 岩美町の荒金鉱山は坑道、トロッコ跡、山神社などの他は地上の建築物を残すわけではないが、長い採掘の歴史を反映する遺構が地下に眠っている可能性は高く、鉱山全体を「史跡」または「文化的景観」として評価することが可能である。「(重要)文化的景観」や「登録記念物(史跡)」などの緩やかな制度が荒金鉱山の保護には適していると考える。その一方で、汚水処理などの環境問題が露呈しており、朝鮮人労働者の酷使・差別の問題も抱えている。文化財価値を「正」の遺産と位置づけるならば、汚水処理や労働問題は「負」の遺産に位置づけられるかもしれない。
 私は、マイナスの評価をも歴史的事実として受け止め、遺産評価の対象にすべきと考えている。負の遺産を否定的にとらえるのではなく、未来にむけての教訓として位置づけるならば、正の側面とあわせて後世に伝えるべき価値があり、正・負あわせての保護こそが今後の課題になると思われる。 この正・負の価値と、最近芽生えてきた「ダークツーリズム(闇の観光)」という概念には相関性がある。どんな地域も災害、病気、差別、公害などの闇の側面を抱えており、その歴史もまた人類が後世に伝えるべき遺産であり、教訓たりえるので、観光の対象として存在意義があるとするのが、ダークツーリズムの思想である。世界遺産を例にとるならば、「アウシュビッツの収容所」や「原爆ドーム」がダークツーリズム対象の代表例と言える。鉱山遺産の場合、その文化財価値とともに、公害や労働問題などの負の側面をも強調することで、ダークツーリズムの対象となり、人類史を顧みる教訓の場となりうることを繰り返し指摘して、本研究の結びとしたい。


≪参考文献≫
1. 岩美町教育委員会内岩美町誌刊行委員会編(1968)『岩美町誌』岩美町
2. 岩美町誌執筆編集員会編(2006)『新編岩美町誌上巻・下巻』岩美町
3. 竹内理三編(1982)『角川日本地名大辞典 31 鳥取県』角川書店
4. 浅川滋男編(2020)『古民家「終活」の時代―文化遺産報告書の追跡調査からみた過疎地域の未来像』公立鳥取環境大学
5. 福美博至「岩美鉱山の朝鮮人労働者について」(1999)『岩美町郷土文化研究会誌 第九集』岩美町郷土文化研究会:pp95-104,
6. 朝鮮人強制連行真相調査団編(2001)『朝鮮人強制連行の記録 中国編』柏書房:
pp212-214
7. 安保彰夫「埋もれた小私鉄シリーズ―岩井町営軌道秘録」(1994)『鉄道ファン94-5 Vol.34』交友社:pp92-97
8. ⾧船友則(1993)『鉄道史散策 第2 号』:pp9-21
9. 前畑洋平(2016)『産業遺産JAPAN』創元社
10. 尾崎清子編(2011)『鉱山をゆく』イカロス出版
11. 松本滋編(2015)『軍艦島の生活-1952/1970-』(創元社)
12. 井出明(2021)『悲劇の世界遺産-ダークツーリズムから見た世界-』文春新書
13. 井出明(2018)『ダークツーリズム-悲しみの記憶を巡る旅-』幻冬舎新書

≪参考サイト≫
1. 石見銀山世界遺産センター https://ginzan.city.oda.lg.jp/
2. 軍艦島の真実 https://www.gunkanjima-truth.com/l/ja-JP/
3. 文化庁「国指定文化財等データベース」https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/index
4. 佐渡市「佐渡の文化財 国選定 重要文化的景観:佐渡相川の鉱山及び鉱山町の文化
的景観」 https://www.city.sado.niigata.jp/site/bunkazai/5270.html
5. 朝来市「重要文化的景観 生野鉱山及び鉱山町の重要文化的景観」
https://www.city.asago.hyogo.jp/0000003263.html
*いずれも2022年2月16日閲覧

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Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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