蒼空への旅立ち(4)

SAYONARA
黄金週間も終わってしまいますね。数日前、人生においてそうそう出会えないCDを手にしました。ほかならぬ、中川イサトさんの『SAYONARA』(1990)です。恥ずかしながら、イサトさんの作品は、CDが『1310』(1977)、DVDが『アローン』(2004)と『あの日の風-with 武蔵野レビュー』(2007)しかもっていませんでした。いずれも私が50歳代(10~15年前)に購入したものです。当時、相当数のソロギタリストの活動に耳を奪われており、ソリストとしてのイサトさんの相対的なポジションはさほど高くなかったのですが、その一方で、弾き語りに突出した魅力を感じていました。絶妙のミュートが効いたギター伴奏と低くて渋い声。とくにお気に入りだったのが『坂庭省悟トリビュートやくそく』(2006)に収録された「筑後川」です。単純なスリーフィンガーのようで、あの味は絶対に出せない。どうしたら、あのようなミュートが表現できるのか不思議でしたが、最近「小室等の新音楽夜話」での解説を聞いてようやく理解したしだいです。
『SAYONARA』はソリストとしてのイサトさんの力量と幅広い音楽性が頂点に達した傑作だと思います。このころコンディションがとても良かったようで、その証拠となるライナーノーツのメッセージを抜粋してみましょう。
もう随分ながい年月、音楽の仕事に携わってきたのですが、
この“SAYONARA”のレコーディングほど夢中になった事は、
これまで一度もありませんでした。コンディションにも因るのだろうけど、
昨年('90年)の秋頃から自分のバイオリズムがピークの状態で持続していて、
それがかなり影響しているようです。(略)
それにしてもアコースティック・ギターって何んて奥の深い楽器なんでしょう。
これからも追求し続けたいと思っています。(略)
ボサノバまで作曲してる。ハーモニカは松田幸一。
和と間とアジアの音楽的世界観
イサトさんは小室等さんとの対談で、「ある時から音の数を多くするのは控えて間をあけるようにした。それは日本の音の特徴だ」というような発言をしています。こうした絶妙な間のとり方は、パブロ・カザルスの「鳥の歌」にも通じるものであり、「良い音楽とは何か」を深く考えさせてくれます。冗談ではなく、このGWに聴いた音楽では、カザルスのチェロとともに、イサトさんの「蒼空」や「産寧坂」に強く刺激を受けました。「いつか王子様が」とか「ブルー・イン・グリーン」などで音数を抑えていたころのマイルスにもそういう傾向があり、二胡の音楽もそれに通じるものかもしれません。早弾きや大音量の音楽とは真反対の美学がそこにある。
イサトさんが、このような和の音、あるいはアジアの音に注目し、自らの作品に反映させようとしている点には注目せざるをえません。管見ながら、若い世代に同様の指向をもつミュージシャンはほぼいないと思うのですが、私たちより上の世代では、イサトさんとともに細野晴臣さんがただちに頭に浮かびます。細野さんの場合は、ティンパンアレイの途中からアジア音楽/民族音楽に目覚め、YMOでテクノロックとしてアジア音楽を表現するようになりました。対して、イサトさんの場合は、ソロギターで和やアジアを描こうとした。音数が少ないのはイサトさんの方です。イサトさんは中国系の音楽にも目を見開いている。「蘇州夜曲」のカバーとか、「Sayonara」での二胡の使用など、今から30年前の録音だというのが信じられない。見事の一言でしょう。幅広い音楽的視野がなければなしえない選択であり、そうそう簡単に後継者が生まれるものではない。アコギでこの世界観を表現できる人はいないでしょうね。
以下、演目リストです。 *〈 〉内は作者、〈 〉のない曲はすべてイサトさんのオリジナル。
1.Sun Down
2.Lefty 25
3.冬茄
4.蘇州夜曲 〈西条八十/服部良一〉
5.すとろべりい とまと
6.硝子窓に春 〈キンタ/中川イサト〉
7.Amazing Grace 〈Traditional〉
8.音羽の滝
9.産寧坂
10. Caribbean Dance
11. Shadow Key
12. Sayonara
13. もう引き返せない 〈金森幸介〉
14. Sun Down(Reprise)
『SAYONARA』に感銘した結果、さらに3枚のCDと2冊の楽譜を購入したんです。CDは車中で聴けばよいけど、楽譜は困ったもの。いま弾けるギターが手元にありません。まずは弦を貼り替え、爪をのばして。だとしても、下宿で音を出すのは憚られるので、練習場所を確保しないといけない。時間はない・・・読むだけの楽譜になるのかな?
*エレキをもった写真をはじめて視ました
【連載情報】蒼空への旅立ち
(1)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2566.html
(2)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2568.html
(3)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2572.html
(4)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2577.html
和と間とアジアの音楽的世界観
イサトさんは小室等さんとの対談で、「ある時から音の数を多くするのは控えて間をあけるようにした。それは日本の音の特徴だ」というような発言をしています。こうした絶妙な間のとり方は、パブロ・カザルスの「鳥の歌」にも通じるものであり、「良い音楽とは何か」を深く考えさせてくれます。冗談ではなく、このGWに聴いた音楽では、カザルスのチェロとともに、イサトさんの「蒼空」や「産寧坂」に強く刺激を受けました。「いつか王子様が」とか「ブルー・イン・グリーン」などで音数を抑えていたころのマイルスにもそういう傾向があり、二胡の音楽もそれに通じるものかもしれません。早弾きや大音量の音楽とは真反対の美学がそこにある。
イサトさんが、このような和の音、あるいはアジアの音に注目し、自らの作品に反映させようとしている点には注目せざるをえません。管見ながら、若い世代に同様の指向をもつミュージシャンはほぼいないと思うのですが、私たちより上の世代では、イサトさんとともに細野晴臣さんがただちに頭に浮かびます。細野さんの場合は、ティンパンアレイの途中からアジア音楽/民族音楽に目覚め、YMOでテクノロックとしてアジア音楽を表現するようになりました。対して、イサトさんの場合は、ソロギターで和やアジアを描こうとした。音数が少ないのはイサトさんの方です。イサトさんは中国系の音楽にも目を見開いている。「蘇州夜曲」のカバーとか、「Sayonara」での二胡の使用など、今から30年前の録音だというのが信じられない。見事の一言でしょう。幅広い音楽的視野がなければなしえない選択であり、そうそう簡単に後継者が生まれるものではない。アコギでこの世界観を表現できる人はいないでしょうね。
以下、演目リストです。 *〈 〉内は作者、〈 〉のない曲はすべてイサトさんのオリジナル。
1.Sun Down
2.Lefty 25
3.冬茄
4.蘇州夜曲 〈西条八十/服部良一〉
5.すとろべりい とまと
6.硝子窓に春 〈キンタ/中川イサト〉
7.Amazing Grace 〈Traditional〉
8.音羽の滝
9.産寧坂
10. Caribbean Dance
11. Shadow Key
12. Sayonara
13. もう引き返せない 〈金森幸介〉
14. Sun Down(Reprise)
『SAYONARA』に感銘した結果、さらに3枚のCDと2冊の楽譜を購入したんです。CDは車中で聴けばよいけど、楽譜は困ったもの。いま弾けるギターが手元にありません。まずは弦を貼り替え、爪をのばして。だとしても、下宿で音を出すのは憚られるので、練習場所を確保しないといけない。時間はない・・・読むだけの楽譜になるのかな?
*エレキをもった写真をはじめて視ました
【連載情報】蒼空への旅立ち
(1)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2566.html
(2)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2568.html
(3)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2572.html
(4)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2577.html