2021年度科研実績報告(2本)
科研実施成果報告のシーズンです。コロナ禍による海外渡航が叶わず、新旧2本の科研が重複しております。旧科研にはまた繰り越し金が発生しました。今年こそブータンでの調査を実施したいと願っています。以下、成果概要です。
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1.題目: ブータン仏教の調伏と黒壁の瞑想洞穴-ポン教神霊の浄化と祭場-
2.年度: 平成30年度~令和4年度 3. 研究種目名:基盤研究(C)一般 18K04543
4.成果概要:
2021年度もブータンへの渡航は叶わず、国内での活動に終始した。2012年より始まったブータン調査に係る成果報告・論文・卒業研究・修士研究を集成して項目別に分けながらデータとテキスト・図版類を整理し、ブータン仏教空間論を主題とする単行本の出版のための準備を進めた。ポン教とチベット仏教に関しては、2020年度から収集した中国側の論文(西蔵チベット族自治区及び青海省・四川省・雲南省のチベット族自治州を対象)を読み進めた。また、2022年1月末に出版された熊谷誠慈氏(京都大学)の編著『ボン教-弱者を生き抜くチベットの智恵』は2020年3月の国際シンポジウムの成果であり、おおいに触発された。
一方、奈良市疋田町でみつかった菅原遺跡「円堂」の復元に取り組んだ。円形の平面をもつ仏堂の遺構と推定され、日本建築史に類例がない。8世紀中後期に存続した菅原遺跡は『行基年譜』にいう長岡院の可能性が高く、行基が入滅した喜光寺の西1kmの丘上に所在する。円形に並ぶ柱穴と基壇跡が回廊・塀等によって囲まれており、法隆寺東院伽藍を彷彿とさせる。中心にある「円堂」も、基壇上の本体部分は八角堂であり、そのまわりに十六角形の土庇(裳階)をめぐらせている。こうした特殊な遺構の復元案を1案に絞るのではなく、A案(栄山寺八角堂を意識)、B案(薬師寺玄奘三蔵院八角堂・安楽寺八角三重塔等を意識)、C案(興福寺北円堂と法隆寺東院夢殿を意識)の複数案を併行して検討した。また、インドで流行した密教の影響は空海以前の奈良時代から始まっており、その代表的な遺産が東大寺の毘盧遮那仏・大仏殿だと捉え直すとともに、大仏鋳造を主導した行基が師匠の道昭(玄奘の弟子)やインド僧菩提遷那などを通して中後期密教の影響を受けており、その反映として、大野寺の土塔や菅原遺跡の円堂に「円」の造形があらわれた可能性があると推定した。
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1.題目: ブータン仏教の調伏と黒壁の瞑想洞穴-ポン教神霊の浄化と祭場-
2.年度: 平成30年度~令和4年度 3. 研究種目名:基盤研究(C)一般 18K04543
4.成果概要:
2021年度もブータンへの渡航は叶わず、国内での活動に終始した。2012年より始まったブータン調査に係る成果報告・論文・卒業研究・修士研究を集成して項目別に分けながらデータとテキスト・図版類を整理し、ブータン仏教空間論を主題とする単行本の出版のための準備を進めた。ポン教とチベット仏教に関しては、2020年度から収集した中国側の論文(西蔵チベット族自治区及び青海省・四川省・雲南省のチベット族自治州を対象)を読み進めた。また、2022年1月末に出版された熊谷誠慈氏(京都大学)の編著『ボン教-弱者を生き抜くチベットの智恵』は2020年3月の国際シンポジウムの成果であり、おおいに触発された。
一方、奈良市疋田町でみつかった菅原遺跡「円堂」の復元に取り組んだ。円形の平面をもつ仏堂の遺構と推定され、日本建築史に類例がない。8世紀中後期に存続した菅原遺跡は『行基年譜』にいう長岡院の可能性が高く、行基が入滅した喜光寺の西1kmの丘上に所在する。円形に並ぶ柱穴と基壇跡が回廊・塀等によって囲まれており、法隆寺東院伽藍を彷彿とさせる。中心にある「円堂」も、基壇上の本体部分は八角堂であり、そのまわりに十六角形の土庇(裳階)をめぐらせている。こうした特殊な遺構の復元案を1案に絞るのではなく、A案(栄山寺八角堂を意識)、B案(薬師寺玄奘三蔵院八角堂・安楽寺八角三重塔等を意識)、C案(興福寺北円堂と法隆寺東院夢殿を意識)の複数案を併行して検討した。また、インドで流行した密教の影響は空海以前の奈良時代から始まっており、その代表的な遺産が東大寺の毘盧遮那仏・大仏殿だと捉え直すとともに、大仏鋳造を主導した行基が師匠の道昭(玄奘の弟子)やインド僧菩提遷那などを通して中後期密教の影響を受けており、その反映として、大野寺の土塔や菅原遺跡の円堂に「円」の造形があらわれた可能性があると推定した。
1.題目: ボンとは何か-主にブータン仏教からみたボン教的聖域の構造と表象
2.年度: 令和3年度~令和5年度 3.研究種目名:基盤研究(C)一般 21K04470
4.成果概要:
2021年度もブータンへの渡航は叶わず、国内での活動に終始した。2012年以降のブータン調査データを整理しつつ、ボン教とチベット仏教に関しては、2020年度から収集した中国側の論文を読み進めた。一方、奈良市疋田町でみつかった菅原遺跡「円堂」の復元に取り組んだ。円形平面の仏堂遺構と推定され、日本建築史に類例がない。8世紀後半に存続した菅原遺跡は『行基年譜』にいう長岡院の可能性が高く、行基が入滅した喜光寺の西1kmの丘上に所在する。円形に並ぶ柱穴と基壇跡が回廊・塀等によって囲まれており、法隆寺東院伽藍を彷彿とさせる。中心にある「円堂」も、基壇上の本体部分は八角堂であり、そのまわりに十六角形の土庇(裳階)をめぐらせている。こうした特殊な遺構の復元案を1案に絞るのではなく、複数案併行で検討した。また、インドで流行した密教の影響は空海以前の奈良時代に伝来しており、その代表的な遺産が東大寺の毘盧遮那仏・大仏殿だと捉え直すとともに、大仏鋳造を主導した行基が師匠の道昭(玄奘の弟子)やインド僧菩提遷那などを通して中後期密教の影響を受け、その成果として、大野寺の土塔や菅原遺跡の円堂に「円」の造形を表現した可能性があると推定した。
以上の諸成果を中間報告書『ブータンの風に吹かれて-中後期密教の比較文化』として刊行した。構成は以下のとおり。第1章「菅原遺跡円堂の復元」(浅川・岡垣頼和他)、第2章「ブータンの崖寺と瞑想洞穴」(吉田健人・浅川)、第3章「ブータンの崖寺と瞑想洞穴(2)-第4次調査の報告」(浅川・大石忠正他)、第4章「西ブータンの崖寺と民家-ハ地区を中心に」(浅川・大石)、跋文「開学20周年とブータン研究」(浅川)、付録「ブータン仏教関係卒業論文・修士論文概要」。本科研期間中に出版予定の「ブータン密教とボン教の空間論」を主題とする著作のベースになる報告書がまとまったと考えている。
《研究成果(2科研共通)》
①査読論文: 浅川・岡垣・宮本・篠永・加藤・玉田(2022)
「菅原遺跡「円堂」の復元」『古代』149号:pp.69-90、早稲田大学考古学会、
②報告書: 浅川編(2022)
『ブータンの風に吹かれて-中後期密教の比較文化』公立鳥取環境大学、100p.
③web上の公開
開学二十周年とブータン研究(1)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2523.html
開学二十周年とブータン研究(2)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2524.html
大僧正行基と長岡院 -菅原遺跡を中心に-
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2519.html
行基縁りの地を往く (6) -記者発表と報道
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2491.html
行基の長岡院-菅原遺跡訪問記
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2414.html
*菅原遺跡「円堂」の復元プロセスについては、研究室ブログ(http://asaxlablog.blog.fc2.com/)上で5回連載している。
2.年度: 令和3年度~令和5年度 3.研究種目名:基盤研究(C)一般 21K04470
4.成果概要:
2021年度もブータンへの渡航は叶わず、国内での活動に終始した。2012年以降のブータン調査データを整理しつつ、ボン教とチベット仏教に関しては、2020年度から収集した中国側の論文を読み進めた。一方、奈良市疋田町でみつかった菅原遺跡「円堂」の復元に取り組んだ。円形平面の仏堂遺構と推定され、日本建築史に類例がない。8世紀後半に存続した菅原遺跡は『行基年譜』にいう長岡院の可能性が高く、行基が入滅した喜光寺の西1kmの丘上に所在する。円形に並ぶ柱穴と基壇跡が回廊・塀等によって囲まれており、法隆寺東院伽藍を彷彿とさせる。中心にある「円堂」も、基壇上の本体部分は八角堂であり、そのまわりに十六角形の土庇(裳階)をめぐらせている。こうした特殊な遺構の復元案を1案に絞るのではなく、複数案併行で検討した。また、インドで流行した密教の影響は空海以前の奈良時代に伝来しており、その代表的な遺産が東大寺の毘盧遮那仏・大仏殿だと捉え直すとともに、大仏鋳造を主導した行基が師匠の道昭(玄奘の弟子)やインド僧菩提遷那などを通して中後期密教の影響を受け、その成果として、大野寺の土塔や菅原遺跡の円堂に「円」の造形を表現した可能性があると推定した。
以上の諸成果を中間報告書『ブータンの風に吹かれて-中後期密教の比較文化』として刊行した。構成は以下のとおり。第1章「菅原遺跡円堂の復元」(浅川・岡垣頼和他)、第2章「ブータンの崖寺と瞑想洞穴」(吉田健人・浅川)、第3章「ブータンの崖寺と瞑想洞穴(2)-第4次調査の報告」(浅川・大石忠正他)、第4章「西ブータンの崖寺と民家-ハ地区を中心に」(浅川・大石)、跋文「開学20周年とブータン研究」(浅川)、付録「ブータン仏教関係卒業論文・修士論文概要」。本科研期間中に出版予定の「ブータン密教とボン教の空間論」を主題とする著作のベースになる報告書がまとまったと考えている。
《研究成果(2科研共通)》
①査読論文: 浅川・岡垣・宮本・篠永・加藤・玉田(2022)
「菅原遺跡「円堂」の復元」『古代』149号:pp.69-90、早稲田大学考古学会、
②報告書: 浅川編(2022)
『ブータンの風に吹かれて-中後期密教の比較文化』公立鳥取環境大学、100p.
③web上の公開
開学二十周年とブータン研究(1)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2523.html
開学二十周年とブータン研究(2)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2524.html
大僧正行基と長岡院 -菅原遺跡を中心に-
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2519.html
行基縁りの地を往く (6) -記者発表と報道
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2491.html
行基の長岡院-菅原遺跡訪問記
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2414.html
*菅原遺跡「円堂」の復元プロセスについては、研究室ブログ(http://asaxlablog.blog.fc2.com/)上で5回連載している。