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映画『ウクライナ・クライシス』感想

謎の元教師と老夫婦、スヴィトラーナから読み解く映画の深層

2022年 5月25日(水)鑑賞
1.映画の基礎情報
  題名: ウクライナ・クライシス(原名ビシュート)
  監督: イヴァン・ティムチェンコ(ウクライナ 2019年)
         
2.映画のあらすじ
 2014年、クリミア併合をめぐり、ウクライナとロシアが対立し、ウクライナ義勇兵(ドンバス大隊)と親ロシア派の反政府軍による内戦が勃発した。ウクライナ義勇兵は反政府軍に占領されたイロヴァイスク市の奪還に成功するが、ロシア軍の参戦により、逆に包囲され窮地に陥ってしまう。負傷したビシュートたちはアパートに逃げ込み、その住民たちの協力もあり、無事帰還する。一方、生き残っていた他の義勇兵たちは人道回廊を通って撤退を開始するが、ロシア軍による総攻撃を受けてしまう。

3.感想
 ウクライナ義勇兵も親ロシア派の反政府軍もたくさんの人がなくなっており、どちらが悪いという話ではなく、それが2014年に起きていたと考えると恐ろしい話であった。私が印象に残った人物は義勇兵に捕虜にされた兵士の父親である。彼は親ロシア派の士官として指揮もとっており、かなり初めの段階から登場していた。部下や敵兵に対してあたりが強く、大きな体と怖い顔からも悪い人間であると感じていた。しかし、人道回廊を進むウクライナ義勇兵をロシア軍が攻撃したことを知った時に激怒しており、息子を取り戻そうとする姿勢からも、決して悪い人物ではなく、むしろ彼は紛争でたくさんの人がなくなっている現状にイライラしているように見えて、正義感の強い、仲間や家族を大切にできる人間ではないかと思うようになった。
 そんな彼は、息子が死んだことを知った時、怒りの矛先をウクライナのリーダー格、ビシュートに向け、人間性を捨てて激怒し、全力でビシュートを殺そうとした。彼の行いはもちろん間違っていることもあったが、したくもない紛争に無理やり参加させられ、息子を殺されて自我を失ってしまうのも仕方がないのではないかと感じた。また、彼が最後ビシュートたちから解放された時に何を思ったのか、軍にはどんな報告をしたのか、答えはわからないが考えてみると面白かった。

1)この映画は何を言いたいのか
 私はこの映画が伝えたいことは戦争の悲惨さと家族の大切さであると感じた。映画の中にはわざわざ体内に打ち込まれた弾丸を麻酔なしにピンセットで抜くという眼をそむけたくなるような痛々しいシーンが2回も使われていたり、紛争によるいざこざからレイプに発展したりするシーン、ごみをあさって飲み物を探すシーンなど、銃撃戦以外にも悲惨なシーンが多々見受けられた。また、そのところどころに引き離された家族や、それぞれ家族に送るためと思われる動画を移動中に回していたりするなど、家族の重みを思い出させてくれる場面があった。

2)イロヴァイスクの家族はなぜビシュートをかくまったのか、砲弾はどこからの攻撃か
 親ロシア派隊長の秘書、スヴィトラーナは親ロシア派に疑問を抱いていた髭面の教師の教え子なのではないかと考える。教師と離婚した妻の発言によると、イロヴァイスクの若者のほとんどが髭面の教師の教え子だという。また、髭面の教師とスヴィトラーナはウクライナ義勇兵であると分かっていながら、ビシュート達を助けるという共通の行動をとる。また、イロヴァイスクから離れたいとも思っている。二つの共通点を確認できる。以上から、髭面の教師は授業でもウクライナ派の思想を語ってきた可能性があり、それに影響されたスヴィトラーナとその家族は、町に住む親ロシア派の人間や紛争に対する疑問から、ビシュートを助けたと考える。
 砲撃はスヴィトラーナを黙らせろと命令されたロシア軍の兵士だと考える。彼の部隊はスヴィトラーナから告発を受けており、トラブルになる前に好きなやり方で黙らせろと命令を受けていた。告発書が数枚あったことからも親ロ派は多くの問題を抱えていた残虐な部隊であることが想像できる。以上から、親ロシア派の兵士がスヴィトラーナを黙らせるために砲撃したと考える。

3)髭面の元教師は何者か
 2)でも少し触れてしまったが、髭面の教師は新ロシア派の思想に疑問を抱いており、教師であった頃はその疑問を生徒たちに投げかけていたことがうかがえる。しかし、町のほとんどの住民は親ロシア派であることから自分の居場所を見失い、町を出る。ウクライナ西北方面に向かうバスでビシュートのピンチを目撃した際には、当たり前のように銃で人を打ち、ビシュートの手助けをしていた。容赦なくロシア人を打った姿勢からもウクライナに対する思いはかなり強いと考えられる。このことからビシュート達を助け、その後行動を共にしたのではないかと考える。(紅しょうだ)


【解説】  髭の男は戦争前まで十数年、街の文学教師だった。教師はそもそもリベラリストであり、文学は平和の芸術である。当然、歴史・文化に対する造詣も深い。ソヴィエト連邦支配下のウクライナの悲惨な歴史も知っている。学生が指摘するように、スヴィトラーナもまた教師の教え子だった可能性がある。多くの教え子が反政府軍に加わったことを教師は嘆いている。スヴィトラーナもまた、親露派隊長の秘書となるが、ロシア本国の影響力が強い親露派の過激な思想に懐疑的であり、また親露派兵士から度重なるセクハラを受けていた。このことに悩み、告発文を隊長に提出したが、一部のロシア兵は、この告発文を読んで憤慨し、老夫婦の家に脅しの弾を撃ち込んだ可能性もあり、それは、越境してきたロシア軍の弾だったのかもしれない。レイプ未遂のシーンは、こういう流れのなかでとらえるべきであろう。
 老夫婦は、ソヴィエト連邦の時代を生き抜いてきた。決して心地良いとはいえない、苦しい時代だったことを身をもって知っている。そして、同じソ連邦の同胞として、戦争すべきでない兄弟民族が戦っていると思っている。だから、ウクライナ兵を庇い、養う。
 イロヴァイスクは、親露派軍団がロシア政府軍の支援をうけて不法に支配する街であり、軍部はロシアとの併合を望んでいるが、一般市民は必ずしもそうではない。スヴィトラーナや元文学教師はウクライナ北西部に移住しようと考えている。スヴィトラーナと若いウクライナ兵が恋に落ちるのも、ロシア兵に対する反発と街から逃れたいという意思を重ねあわせてみることで、唐突な性愛シーンの奥にある意味を読み取れる。結果として、ウクライナ兵を助けたスヴィトラーナが親露派に捕まり、今後、拷問をうける可能性があるのは逆説的なオチである(ビシュートが解放した隊長がスヴィトラーナを救うかも?)。
 ウクライナ東南部のドンバス地方は、ロシア民族が多く居住し、そのなかの過激派がロシア本国の支援をうけてクリミア併合後に蜂起し、「全体主義者」との抗争を繰り広げているが、その地域の一般住民は、ウクライナ民族もロシア民族も、戦争をやめてほしいと心の底では思っている。ロシアに併合されても、よいことがあると決まったわけではなく、むしろソ連時代に逆戻りして、恐怖政治の傘下に収まる可能性が高い。そうした未来の恐ろしさを、教養ある者(元教師やスヴィトラーナ)、歴史を体験した者(老夫婦)は気付いている。

 この映画を3度視て、何を言いたいのか、よく分からなかった。戦闘の激しさだけを描くなら、ギャング映画と大差ないわけだが、学生諸君の感想を読み、自分でも文字化してみたことで、ようやく映画の奥深さを読み解くことができた。ドンバス地域の歴史的背景と未来、そして戦争の無益さを、激しい戦争の裏側で描こうとした作品である。


 fullmovie がアップされてるなんて?!

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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