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戦争と平和(3)-ソ連版Disc2・Disc3

2022年6月29日(水)鑑賞
1 動画の基礎情報

 題名 戦争と平和(ソ連版大河ドラマ、1965~67年制作)

 監督・主演(ピエール役) セルゲーイ・ボンダルチューク
         
2 Disc2~Disc3のあらすじ
 〔Disc2〕  1810年、ロストフ伯爵の令嬢ナターシャは18歳を迎え社交界にデビューし、舞踏会でアンドレイとワルツを踊り、二人は互いに一目惚れした。やがてアンドレイはロストフ家を訪れてナターシャに結婚を申し込む。しかし、頑迷な父公爵は、ナターシャがまだ若いことを案じ、一年間の猶予をつけた。アンドレイはその間、外国に旅立つ。この一年、ナターシャにはあまりにも長過ぎた。不安と焦燥にかられるようになる。そんな時に家族とモスクワの劇場でオペラを観劇中、エレンの弟、アナトリーと出会い、熱烈な求愛を受け、惑い悩むも外国への駆け落ちを決心する。その企ては姪のソーニャがピエールに伝えた。ピエールがアナトリーをペテルブルクから追放し、彼に妻がいることをナターシャに暴露してしまう。ナターシャは絶望の余り自殺を図るが未遂に終わり、アンドレイに婚約を取り消す手紙を送る。やがて外国から戻ってきたアンドレイは手紙を彼女に返すようにピエールに頼み込む。ピエールは重い気持ちでロストフ家に向かう。ここで傷心のナターシャを優しく労わり、涙で叱りながら生来の不器用さから心の高ぶりを抑えきれず愛を告白する。ロストフ家を出て、外に待つ馬車に乗った時、暗い夜空に白く長い尾を引きながら巨大な彗星が現れた。1812年のハレー彗星は世界の終りを予言したとされるが、ピエールの涙に濡れた目には新しい人生に向かって開花しようとする素晴らしい白い光に映っていた。(Wikipedia参照)
 〔Disc3〕 1812年、ナポレオンがロシアに侵攻する。フランス軍に敗戦続きのロシア軍は再度クトゥーゾフ将軍を司令官に迎える。モスクワをめざすナポレオンを迎え討つため、郊外のボロジノで運命をかけた戦いが始まった。ナターシャとの愛に破れたアンドレイは祖国愛に燃えて自己の全てを賭けて出征し、ピエールも軍隊に馳せ参じるのではなく、これまでの無益な人生を清算するために一人で戦場に赴く。ここに両軍合わせて20万人を超す兵力が激突したボロジノの戦が始まる。アンドレイは重傷を負う。ピエールも従軍し、戦争の凄まじさ、恐ろしさ、非情さを知る。両軍とも半数近い兵力を失うほど激戦であった。夜が訪れた時、何万という死体の山、負傷者のうめき、硝煙と血の匂いが立ち込める。救護所でアンドレイは兵士が片脚を切断されているところを見た。その兵士はナターシャを口説いたアナトリーであった。苦悶する彼の顔を見てもはや憎しみの感情は湧かなかった。(Wikipedia参照)

3 鑑賞を終えての感想
 〔Disc2〕 戦争映画ではなくナターシャを中心とした恋愛映画であった。戦争中であれ平時であれ、どんな時代でも起こりうる日常が描かれている。私はアンドレイが一番可哀想だと思った。妻のリーザを亡くし、絶望していた後、ナターシャとの出会いに運命を感じ、彼女の存在は生きる希望となった。ナターシャとの結婚の約束し、外国に旅だって、1年後に帰国すると、ナターシャは別の男に遊ばれていたというのはなんとも悲しい出来事であったろう。以前、「過ちをした女を許せ」と発言していた彼が「改めて求婚はしない」というように、かなりの失望を感じている。アンドレイの失望する気持ちはわかるが、私は許してしまうかもしれない。一番許せないのはナターシャに手を出したアナトーリである。自分に妻がいながら婚約中の別の女性に手を出すなんて、はっきり言ってあり得ない。映画の描写では、ナターシャがアンドレイからアナトーリに心変わりするところはあまり説明がなくわかりにくかった。
 〔Disc3〕 Disc2とは打って代わり、まさしく戦争映画であった。映画の大部分が戦闘シーンであり、CGを使わない迫力ある戦いに目を見張った。Disc3はDisc2より上映時間が10分ばかり短いだけだが、時間の流れが速く感じる。最後の場面で、負傷したアナトーリの隣にいたアンドレイが、ナターシャを思い浮かべるシーンは印象的であった。(滅私)





バラライカカクテル バラライカ イラスト


【質問1】 バラライカとギターのシーンは何を表現したかったのか?
 バラライカはとても印象に残った。映画の場面では楽器こそ出てこなかった名前は聞いたことがあったが、音を聞いたことも実物を見たこともなかったので、この機会に知ることができてよかった。ただし、映画では楽器は画面に登場しない。音だけ聞こえる。バラライカはギターやマンドリンに似た撥弦楽器だが、共鳴胴が三角錘形を呈している。弦は3本で、第2弦と第3弦は同音とする。さらに深掘りしてみると、バラライカというウォッカベースのカクテルもある。たしかにグラスのかたちはバラライカのミニチュアだ。バラライカはロシアでは安価な楽器で、喧嘩の道具として使われることもあったそうだ。楽器で殴り合いでもしていたのか…安価とはいえもったいない気しかしない。
 バラライカの調べが流れる場面は、ナターシャがアンドレイとの婚約を決めた後、アナトールに言い寄られる前の段階である。舞 踏会で一目惚れしたアンドレイと結婚を決めたものの、アンドレイは海外に修行に出てしまう。アンドレイが旅立つシーンでは、ナターシャが「行かないで」と言う。ナターシャの中で不安な気持ちが増幅していった。そんななか、農村にいる叔父の住宅で、バラライカが奏でられ、彼女は自然に踊りだした。自分を元気づけて立ち直り、彼の帰りを待つという意味があるのではないか。
 音楽関係でもう一つ述べようと思う。吹奏楽を中学からしており、何度かロシア関連の曲に触れたことがあったのだが、「大序曲1812年」はナポレオンと戦ったボロジノの戦のための楽曲である。この曲は冒頭、ロシア正教讃美歌から始まり、フランス軍とロシ ア軍の戦闘、ロシア軍の反撃(冬将軍?)、ロシア軍の勝利の祝いなどが表現されている。この機会に少し深掘りしてみると面白い点がいくつかあった。まず、楽曲内にフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」が登場する。戦争におけるフランス軍の優勢を表現している。曲の途中に、フランス国歌が完璧な形で演奏されたり、断片的に演奏されたり、ロシア民族舞踊と交互に演奏されたりしている。フランス優勢からロシア優勢への移り変わりの表現とみればよいだろう。勝利の祝いの前には、冒頭で登場したロシア正教会のフレーズが再び登場する。このフレーズと共に、教会の鐘も奏でられる。 最後の祝いのシーンでは、最大音量でロシア軍行進のテーマが演奏され、低音楽器がロシア帝国国歌を奏でる。さらに、楽譜に「Canon」と記されており、祝砲を鳴らし、ロシア軍の大勝利を表現した形で曲が終わる。中学の時は何となく吹いていた曲だが、ここまで細かく表現されていたとは…後悔の念が大きいと同時に、一つの楽曲について掘り下げるのはこんなにも楽しいのかと改めて思った。 ちなみに中学の時は大砲(Canon)の代わりに、バスドラムを使ったので、忠実に大砲を用いた本兵がの演奏と聞き比べると迫力がちがう。「大砲を使っての演奏をしてみたかったなぁ」という思いが強くなった。(御前様)


バラライカ 楽器


 ロシアの伝統楽器であるバラライカの音楽をナターシャはおとなしく聞いていたが、叔父がギターで奏でた2曲目のワルツになると、ロシア伝統のステップを用いたダンスを踊り始めた。高度な技術で弾かれたバラライカは優秀で真面目なアンドレイに重ねあわせ、叔父が弾いたギターのワルツは「婚約しているのにアンドレイと会えない切なさ」を感傷的にとらえて踊り出し、最後に叔父の明るいギターにバラライカを重ねた曲とともに楽しく踊るナターシャの姿は、「待つだけの寂しい生活から抜け出して生きたい」ナターシャの願望があらわれたのではないかと思う。 (丹波の黒豆)

2.戦争と宗教の関係
 異なる宗教を信ずる人々のあいだには軋轢が起こる。その相違はかなり深刻なものである。そして、民族性と言語が共通していても、宗教が違う人々はたがいに殺しあう場合があり、それが戦争へと進展する。今日において,宗教は戦争の主たる原因ではないとされているが、背後にはイスラム教徒とキリスト教徒の対立が含まれていることがよくある。ロシアとフランスの宗教は、それぞれロシア正教とカトリックであり、1054年に分裂して以降対立しあっている。ナポレオンは、大陸封鎖令に違反したイギリスとの通商を理由に侵攻を行ったが、宗教の違いも少なからず関係していると思う。宗教は、人間にとって心の支えや教えとなる必要不可欠なものである。互いの宗教を批判しあっていても対立を生むだけであり、お互いの宗教を理解し、尊重することが大事である。

3.ピエールはなぜ戦場にいたのか
 ピエールが戦場に向かったのは、今までの情けない自分から変わるためだと思った。Disc1から3に至るまで彼の変化が見てとれる。Disc1で描かれるピエールはお世辞にも立派な人間とは言えなかった。仲間たちと酒を飲み騒いで警察沙汰になり、他の貴族からはあきれられていた。すぐかっとなる性格で決闘後は怖くてその場から逃げ出してしまっていた。妻にも逃げられ、かなり情けない人だと思っていた。しかし、2での彼は少したくましくなっていた。ナターシャに手を出したアナトーリを追い詰め、どん底に落ちたナターシャを励ましていた。3ではアンドレイがピエールにモスクワ(祖国)を守るという熱意を語っていた。ピエールはナターシャに恋しており、ナターシャはアンドレイにまだ気持ちがあった。親友でもあり、ナターシャが恋するアンドレイの言葉に影響され、戦争の現場を直視するため、過去の自分を変えるために戦場に向かったのではないか。戦場での彼におどおどした様子はなく、強い信念があるように感じた。 (滅私)





戦場に舞い降りたトルストイ

 バラライカのシーンは、農村に住むロシア貴族の日常的な生活を描いているものですね。社交パーティに代表されるような公式的=フランス的な貴族の音楽やダンスと対照的に、バラライカの音楽とダンスはロシア民族、とくに庶民=農民に固有な文化であり、社交界と対照的な表現です。ナターシャの不安を慰め、勇気づける場面にロシアの大衆音楽を使った。それは社交界のシーンといろんな意味で対極に位置付けうるということでしょう。
 ある民族の信仰する宗教はその民族にとってなくてはならないものですが、他の宗教を信じる異民族からみれば「邪教」にほかならない。一神教の世界では、他の神を信じる者はこの世に存在する必要はなく、自らの神を信じる者だけがこの世にいればいい。フランス対ロシアの戦いは、カトリック対ロシア正教の宗教戦争にほかならないわけです。ポーランドもカトリックであり、ウクライナ・ロシアの正教グループと対立していた。宗教と戦争は、いつでもどこでも表裏一体です。ロシアでは、レーニンの共産主義革命により、宗教が否定されたはずなのに、プーチンは正教を篤く信仰している。おまけに、正教の宗主はプーチンの元同僚でKGB出身であり、核戦争支持派だというのだから呆れてしまいます。
 ボロジノの戦におけるピエールはトルストイの化身なんじゃないでしょうか。そうとでも解釈しない限り、あの服装を理解できません。ただ戦場に行きたいのなら、それなりの服装に着替えないと、兵隊の足手まといになるだけだ。トルストイが戦場に舞い降りて悲惨な光景を目の当たりにし、あたかも記者のように報道し、平和を訴えている。最後の「戦争をやめよう」というメッセージは、ピエールの姿を借りたトルストイの願いなんじゃないか、ということです。(教師)



チャイコフスキー 1812年(序曲) 小澤征爾+べリリン・フィル
クラッシック苦手です。柄でもありませんが、今回は仕方ありません・・・



《関係サイト》
戦争と平和
(1)ヘップバーン > トルストイ
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2548.html
(2)ソ連版Disc1
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2599.html
(3)ソ連版Disc2・Disc3
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2600.html
(4)ソ連版Disc4
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2605.html

映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』感想
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2594.html
映画『ウクライナ・クライシス』感想
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2590.html

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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