ウクライナの風に吹かれて(5)


公立鳥取環境大学学術講演会 予報(1)
「ウクライナ避難民の支援と人類社会の未来像(中間報告)」
ナターシャ・グジーさんのCFU47「希望の大地」チャリティツアー鳥取公演の前夜(10月4日)、公立鳥取環境大学サスティナビリティ研究所主催の学術講演会「ウクライナ避難民の支援と人類社会の未来像(中間報告)」が以下の日程・会場等で開催されます。
1.日時: 2022年10月4日(火) 開場17:30 開演18:00-20:20
2.会場: 県民ふれあい会館 5F講義室
〒680-0846 鳥取市扇町2 ℡0857-21-2266
3.定員: 120名 聴講無料(要予約 先着順)
4.次第:
17:30 開場
18:00 開会挨拶 田島正喜(サステイナビリティ研究所所長)
18:10 講演1ー浅川滋男
避難民の「居場所」を読み解く
18:50 講演2-角野貴信+ユリア・メドベージェワ
ウクライナの土壌の放射能汚染
*以上の講演概要は「続き」に掲載しています。
19:30 コメント・質疑
マリーナ・ピロゴバ(ウクライナ出身、北条ワイン醸造所)
ボリス・アファナセフ(ロシア出身、SAMI JAPAN出雲)
キリル・サプラノフ(同上)
磯野 誠(公立鳥取環境大学経営学部)
20:20 閉会挨拶 佐藤彩子(サステイナビリティ研究所副所長)
主催: 公立鳥取環境大学 サステイナビリティ研究所
〒689-1111 鳥取市若葉台北1-1-1
℡0857-32-9100 Fax0857-32-9101
事務局・問い合わせ: 公立鳥取環境大学 保存修復スタジオ
e-mail: WWUT02lec@gmail.com または hozonshufuk@kankyo-u.ac.jp ℡09014499213
*できるだけメールでご連絡ください
《連載情報》ウクライナの風に吹かれて
(1)CFU47ナターシャ・グジー 鳥取公演 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2606.html
(2)8月23日の記者発表と報道 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2607.html
(3)県民ふれあい会館ホールの下見 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2608.html
(4)鳥取大学での広報活動 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2609.html
(5)学術講演会予報(1) http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2610.html
(6)故郷-ふるさと http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2612.html
(7)『政経レポート』1500号-CFU47鳥取公演 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2613.html
(8)『政経レポート』1501号-学術講演会予報(2)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2615.html
(9)但馬の報道 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2616.html
1.避難民の「居場所」を読み解く
浅川 滋男(公立鳥取環境大学環境学部教授)
本年2 月24 日以降になされたロシアによるウクライナ侵攻は世界を震撼させている。ウクライナ国内で住む家を失った避難民は一時期1,000 万人を超えていたが、最近は欧州等からの帰還者も増え、海外の避難民は470万人程度と推定されている(UNHCR集計)。一方、日本の避難民は漸増しており、約1,700 人を数え、生活支援が急務となっている。こうした避難民の問題は、多民族共生の未来を考える手がかりとなる。人間には誰しも、その人にふさわしい「居場所」がある。避難民や多民族共生社会にふさわしい「居場所」はどうあるべきか、その「居場所」にどのように導くか、について思いを膨らませている。
避難民の問題は過疎地の諸課題とも重なりあう。ウクライナ避難民の国内分布をみると、過疎過密の現状をあからさまに反映しており、大都市集中が著しい。人口減少の進む鳥取へ避難したウクライナ人は1名のみ、島根に至っては0名だが、ロシア人4 名が出雲で活動している点に注目したい。サンクトペテルブルグの日系IT企業で働いていたロシア人4 名(本講演会参加)は本社のある東京ではなく、敢えて出雲という地方を移住地に選んだ。生活のしやすさ、リモートワークの特性などを踏まえた決断である。かれらはウクライナ避難民の支援サイト「ドポモーガDopomoga.jp」を立ち上げ、雇用・住宅等の相談にのっている。こうした地方への避難民の定住には一長一短がある。この夏休みにおこなった滋賀・福井・石川などの事例を踏まえ、今後の展望を示そうと思う。
1956年生まれ。京都大学大学院工学研究科博士課程修了。著書に『住まいの民族建築学』(1991) 『能海寛と宇内一統宗教』(2021) 『ブータンの風に吹かれて』(2022) などがある。
2.ユリアさんの受け入れとウクライナ土壌の環境問題
角野 基信(公立鳥取環境大学環境学部准教授)
私は、約20 年前の博士課程の大学院生のころ、ハルキウにあるO.N. ソコロフスキー土壌科学及び農業化学研究所の先生方に、調査でお世話になった。このたびの戦争が始まってから、その際に知り合った先生方や友人たちの安否が大変気になっていた。たまたまそのうちの一人と連絡がついたのだが、時期を同じくして本学でもウクライナ支援を行う予定があることを知り、直接現地の研究者コミュニティと連絡がとれる私が、現地での応募ニーズを探ることになった。実際、連絡のとれた友人を通じてこの研究所内で打診してもらったところ、ユリア・メドベージェワさんが応募してくださった。
今回の報告は、やはり現地の情報から始めたほうが良いと思ったので、ユリアさんにはチョルノービリ原発事故とその放射能汚染の概要を述べた上で、ハルキウ周辺の放射能汚染(土壌+作物)について報告していただく。私は、ユリアさんの補足に加えて、ウクライナ土壌の種類と影響が及ぶ時間について概説しようと思う。
1977年生まれ。京都大学農学研究科博士後期課程修了。著書に『土壌学から見た地理学』(2012) などがある。
3.ウクライナの土壌の放射能汚染
ユリア・メドベージェワ(O.N. ソコロフスキー土壌科学及び農業化学研究所大学院博士課程)
皆さんこんにちは! 鳥取は、優しく、素晴らしい人々の住んでいる美しい街ですね。他にないような海や森のランドスケープや山々もあります。鳥取県や市、公立鳥取環境大学の皆さんには、研究を続ける機会を作っていただき、感謝しています。
私の研究は、環境汚染に関するものです。このトピックは、毎年数百万人が環境汚染で亡くなっているから重要である、というだけでなく、生態系への人為的な圧力が増していることや、地球全体での食料危機に関わっているため重要なのです。
ウクライナにおける主要な放射能被害の原因は、ウラン鉱床の開発過程や放射性鉱物の加工過程に加え、1986年のチョルノービリ原発事故が挙げられます。現在、放射能汚染を受けた農産物の消費が、ウクライナ国民の内部被曝量のうち最も大きい(98%)原因となっています。それらの農産物は、放射性核種(主にセシウム137 とストロンチウム90)が長期間集積している土壌に育ちます。さらには、放射能汚染を受けた食肉や乳製品を消費する危険性もあります。これは、たとえば放射能汚染された牧草を食べた牛を経由してもたらされます。
ウクライナの国土のうち5百万ヘクタールが汚染されており、そのうち百二十万ヘクタールの農地は、セシウム137の汚染濃度が1 平方キロメートルあたり37キロベクレルを超えています。最も高い汚染レベルは、リヴネ、ジトーミル、キーウ州で観察されます。
とくに、困難な放射能汚染の状況はウクライナの森林地帯でみられます。放射性核種が、ベリー類や薬草、キノコ、野生動物の肉に集積しています。ウクライナにおいてポリーシャ(Polesie)と呼ばれるそれらの州では、林内での農産物の放射能汚染のレベルが、セシウム137で最大許容量の何十倍にもなっています。
その他の州では、土壌の放射能のバックグラウンド値は最大許容量を超えませんが、場所によっては特異的に超える場合があります。たとえば、ハリコフ市北部の放射線を扱う実験をおこなっている研究施設付近では、高いベータ線とガンマ線量が記録されています。
このように、ウクライナの土壌における放射能汚染は、1986 年のチョルノービリ原発事故によって最も被害を受けた州:リヴネ、ジトーミル、キーウ州において一般的です。人々にとっての危険性は、これらの州の放射能汚染土壌に育つ農産物や林産物を消費することによって生じます。
上述のように、1986年の事故で最も被害を受けた地域において、放射能の安全性評価を行う必要があります。とくに、民間セクターの土壌,森などの農林産物を生育している地域において、放射能安全性評価を行う必要があります。
1995年ウクライナ ハルキウ市生まれ。今年6月、ウクライナから鳥取県に避難し、公立鳥取環境大学で研究活動を続けている。
★本講演会は、令和4年度公立鳥取環境大学学長裁量経費特別助成「学術講演会『 ウクライナ避難民の支援と人類社会の未来像-多民族共生/ごちゃまぜ型の居場所に係わる考察-』(中間報告)の開催」によるものであり、令和4年度公立鳥取環境大学特別研究費「ウクライナ避難民の支援と人類社会の未来 像-多民族共生/ごちゃまぜ型の居場所に係わる考察-」の成果の一部でもある。
浅川 滋男(公立鳥取環境大学環境学部教授)
本年2 月24 日以降になされたロシアによるウクライナ侵攻は世界を震撼させている。ウクライナ国内で住む家を失った避難民は一時期1,000 万人を超えていたが、最近は欧州等からの帰還者も増え、海外の避難民は470万人程度と推定されている(UNHCR集計)。一方、日本の避難民は漸増しており、約1,700 人を数え、生活支援が急務となっている。こうした避難民の問題は、多民族共生の未来を考える手がかりとなる。人間には誰しも、その人にふさわしい「居場所」がある。避難民や多民族共生社会にふさわしい「居場所」はどうあるべきか、その「居場所」にどのように導くか、について思いを膨らませている。
避難民の問題は過疎地の諸課題とも重なりあう。ウクライナ避難民の国内分布をみると、過疎過密の現状をあからさまに反映しており、大都市集中が著しい。人口減少の進む鳥取へ避難したウクライナ人は1名のみ、島根に至っては0名だが、ロシア人4 名が出雲で活動している点に注目したい。サンクトペテルブルグの日系IT企業で働いていたロシア人4 名(本講演会参加)は本社のある東京ではなく、敢えて出雲という地方を移住地に選んだ。生活のしやすさ、リモートワークの特性などを踏まえた決断である。かれらはウクライナ避難民の支援サイト「ドポモーガDopomoga.jp」を立ち上げ、雇用・住宅等の相談にのっている。こうした地方への避難民の定住には一長一短がある。この夏休みにおこなった滋賀・福井・石川などの事例を踏まえ、今後の展望を示そうと思う。

2.ユリアさんの受け入れとウクライナ土壌の環境問題
角野 基信(公立鳥取環境大学環境学部准教授)
私は、約20 年前の博士課程の大学院生のころ、ハルキウにあるO.N. ソコロフスキー土壌科学及び農業化学研究所の先生方に、調査でお世話になった。このたびの戦争が始まってから、その際に知り合った先生方や友人たちの安否が大変気になっていた。たまたまそのうちの一人と連絡がついたのだが、時期を同じくして本学でもウクライナ支援を行う予定があることを知り、直接現地の研究者コミュニティと連絡がとれる私が、現地での応募ニーズを探ることになった。実際、連絡のとれた友人を通じてこの研究所内で打診してもらったところ、ユリア・メドベージェワさんが応募してくださった。
今回の報告は、やはり現地の情報から始めたほうが良いと思ったので、ユリアさんにはチョルノービリ原発事故とその放射能汚染の概要を述べた上で、ハルキウ周辺の放射能汚染(土壌+作物)について報告していただく。私は、ユリアさんの補足に加えて、ウクライナ土壌の種類と影響が及ぶ時間について概説しようと思う。

3.ウクライナの土壌の放射能汚染
ユリア・メドベージェワ(O.N. ソコロフスキー土壌科学及び農業化学研究所大学院博士課程)
皆さんこんにちは! 鳥取は、優しく、素晴らしい人々の住んでいる美しい街ですね。他にないような海や森のランドスケープや山々もあります。鳥取県や市、公立鳥取環境大学の皆さんには、研究を続ける機会を作っていただき、感謝しています。
私の研究は、環境汚染に関するものです。このトピックは、毎年数百万人が環境汚染で亡くなっているから重要である、というだけでなく、生態系への人為的な圧力が増していることや、地球全体での食料危機に関わっているため重要なのです。
ウクライナにおける主要な放射能被害の原因は、ウラン鉱床の開発過程や放射性鉱物の加工過程に加え、1986年のチョルノービリ原発事故が挙げられます。現在、放射能汚染を受けた農産物の消費が、ウクライナ国民の内部被曝量のうち最も大きい(98%)原因となっています。それらの農産物は、放射性核種(主にセシウム137 とストロンチウム90)が長期間集積している土壌に育ちます。さらには、放射能汚染を受けた食肉や乳製品を消費する危険性もあります。これは、たとえば放射能汚染された牧草を食べた牛を経由してもたらされます。
ウクライナの国土のうち5百万ヘクタールが汚染されており、そのうち百二十万ヘクタールの農地は、セシウム137の汚染濃度が1 平方キロメートルあたり37キロベクレルを超えています。最も高い汚染レベルは、リヴネ、ジトーミル、キーウ州で観察されます。
とくに、困難な放射能汚染の状況はウクライナの森林地帯でみられます。放射性核種が、ベリー類や薬草、キノコ、野生動物の肉に集積しています。ウクライナにおいてポリーシャ(Polesie)と呼ばれるそれらの州では、林内での農産物の放射能汚染のレベルが、セシウム137で最大許容量の何十倍にもなっています。
その他の州では、土壌の放射能のバックグラウンド値は最大許容量を超えませんが、場所によっては特異的に超える場合があります。たとえば、ハリコフ市北部の放射線を扱う実験をおこなっている研究施設付近では、高いベータ線とガンマ線量が記録されています。
このように、ウクライナの土壌における放射能汚染は、1986 年のチョルノービリ原発事故によって最も被害を受けた州:リヴネ、ジトーミル、キーウ州において一般的です。人々にとっての危険性は、これらの州の放射能汚染土壌に育つ農産物や林産物を消費することによって生じます。
上述のように、1986年の事故で最も被害を受けた地域において、放射能の安全性評価を行う必要があります。とくに、民間セクターの土壌,森などの農林産物を生育している地域において、放射能安全性評価を行う必要があります。

★本講演会は、令和4年度公立鳥取環境大学学長裁量経費特別助成「学術講演会『 ウクライナ避難民の支援と人類社会の未来像-多民族共生/ごちゃまぜ型の居場所に係わる考察-』(中間報告)の開催」によるものであり、令和4年度公立鳥取環境大学特別研究費「ウクライナ避難民の支援と人類社会の未来 像-多民族共生/ごちゃまぜ型の居場所に係わる考察-」の成果の一部でもある。