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科研実績報告(新旧2種)

 この2年間、海外渡航が叶わなかったため、新旧科研2種の遂行が滞っており、予算の年度繰り越しをくりかえしてきたが、2022年度にはようやくブータンでの調査が再開された。ここに実績概要を公開する。

1.2018~2022年度 科研実績報告(2年繰り越しの最終年度)

①研究課題名: ブータン仏教の調伏と黒壁の瞑想洞穴-ポン教神霊の浄化と祭場
Exorcism of the Bhutanese Buddhism and Black Wall Meditation Caves
-Purification of Bonism Spirits and their Ceremony Places

基盤研究(C) 課題番号 18K04543 [申請概要]

②研究分野: アジア民族建築史
③キーワード: ブータン 密教 ポン教 非仏教 チメラカン クブン寺 男根 センデンデワ

④研究成果の概要: 2018年度、怪僧ドゥクパ・クンレー縁りのチメラカン(プナカ)本堂で魔女アムチョキム像を観察。寺院周辺の集落には魔女除けの男根を壁に大描きしたり、その木彫を軒先から吊したり、仏壇隅に祀る家が集中する。地霊ルーを封じ込める小祠も多数確認。その最大規模例はプナカ城内にルーポダン(ルーの宮殿)である。これら非仏教系信仰の神霊は仏教側の守護神に変換されるが、実際には流域の土地神であり続け、大祭が催される。これら全てをポン教と一括するのは間違いである。けれども、ブータン人は非仏教=ポン教と認識する傾向も認められるようだ。2019年、ポン教の開祖センデンデワがポプジカに開山したというクブン寺の二階隅にポン教系神霊を祭祀する秘奥の間を確認。2021年にも継続調査した。
 English Summary: In 2018, I observed the witch Amchokim image at Chimelhakhan Buddhist monastery in Punakha, which is associated with the monk Dukpa Kunley. Around the monastery, many houses are clustered with large paintings of phallic figures on the walls, their wooden carvings hanging from the eaves, and enshrined in the corners of Buddhist altars to ward off witches. Many small shrines were also observed to contain the underground spirit Ru.The largest example is in Punakha Castle. These non-Buddhist deities are converted to Buddhist guardian deities, but they continue to be the local deities of the basin and the subject of major festivals. All of them should not be understood as Bonism deities, but the Bhutanese people seem to recognize that non-Buddhism is just Bonism. In 2019, we identified the Bonism Secret Room in the upstairs corner of the Kubum monastery, which was founded by Bonism founder Senden-Dewa in Phopjikha, and I continued to investigate Kubum monastery in 2021.

⑤研究成果の学術的意義や社会的意義: ブータン仏教は北インドより伝来した後期密教の一派であり、厳格な体系性を有するとされるが、寺院や仏間を訪問すると、非仏教的な祭祀対象-魔女、地下王、水神、赤鬼・青鬼等が重要な位置を占める。それらは格式上仏像群に劣り、仏壇の片隅に置かれたり、ギュンカンと呼ばれる脇部屋を祭場とするが、ブータン人の精神世界においては依然存在感が大きい。それらは黒壁瞑想洞穴での瞑想などにより調伏され、仏教側の守護神に変換されるけれども、そうした表向きの変化を裏切るかのように、流域の守護神であり続け、大祭が催される。それらを前仏教的な「ボン教」の神霊として一括できるわけではないけれども、F.ポマレ[2014]が説くように、ブータン人は非仏教=ボン教とみなす傾向がある。チベット系の仏教はこのように著しく土着化している。古代インド仏教世界の再現モデルとさえ思われたチベット系宗教文化のイメージを覆す研究成果がもたらされた。


2.2021~2023年度 科研実績報告(第2年度成果)

①研究課題名: ボンとは何か-主にブータン仏教からみたボン教的聖域の構造と表象
  基盤研究(C) 課題番号 21K004470 [申請概要]
②キーワード:
 ボン ブータン チベット仏教 ベンジ村 ナグツァン ムクツェン 非仏教的土着神霊 クブン寺
③研究実績概要: 2021年度はコロナ禍のためできなかったブータン調査を2022年12月末におこなった。2019年の調査地、チメラカン(プナカ)とクブン寺(ポプジカ)を経由して感覚を取り戻しつつ、トンサ地区のベンジ村を訪れた。ベンジはチベットから逃れてきたボン教徒の隠れ里だが、ブータン国内でもあまり知られていない。チベットを統一した最初の王朝、吐蕃の初代王ソンツェンガンポは仏教に帰依したが、当時は先行するボンの力がなお強く、仏教に大きく舵を切ったのは8世紀のティソン・デツェン王とされる。王には後継権を有する王子が4人いた。3人は王の意志に従い仏教に帰依したが、1人の王子がボン教に固執する。命令に叛く王子に王は告げた。「都のラサにいても、お前は生きのびることができない。遠い南の彼方に逃げてボンを信仰しなさい」と。その王子が逃げ落ちて定着した村がベンジという伝承を村人が共有している。村では、まず翌日おこなう祭祀のためボンの幡を新調する儀式を見学し、その後、封建領主の館ナグツァンの三階奥にあるギョンカンを視察した(撮影不許可)。土地の守護神ムクツェンを祀る秘奥の間である。センデン・デワ開山と伝えるクブン寺2階のギョンカンと同じく、黒で塗りつぶされ、黒い髑髏が諸処にあしらわれている。部屋規模はベンジの方が一回り大きい。ムクツェンの偶像もしくはご神体は隠されているものの、ムクツェンを守護するカタップの像を部屋の隅に置く。これまでハ地区の民家仏間脇壁で赤鬼ジョウと青鬼チュンドゥの像、プナカのチメラカン本堂仏壇隅で魔女アムチョキムの像を見た経験はあるが、ボン教徒のギョンカンで偶像をみるのは初めての経験となった。なお、帰国の前日、パロのゾンドラカ寺本堂の片隅で同類のカタップの像を確認した。また、境内の片隅でボンの幡もみることができた。ボン教の郷、ベンジ村は調査対象としてきわめて重要であり、今後は一定期間ナグツァンに宿泊体験しながら、村の土着的文化の理解を深めたい。

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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