fc2ブログ

幸福な居場所のあり方に係わる試考 ー仏教国ブータンのGNH的生活を体験して 《2022年度修士研究中間報告概要》 前編

東スライド1
東追加図11 東追加図1 スライド1+追加2枚(まつだいカールベンクスハウスとブータン山の教室)

 
 こんにちは、大学院修士課程2年の東将平です。私の怠慢な行動により大変遅くなりましたが、2月15日の修士研究中間発表会の発表内容と概要を報告させていただきます。お力添えいただいた全ての皆様に感謝申し上げます。(2023年10月3日下書きアップ)

題目: 幸福な居場所のあり方に係わる試考 ー仏教国ブータンのGNH的生活を体験して
     A Trial Study on the Way of Wellbeing Places
      - Through the Experience of the GNH Lifestyle in Bhutan as the Buddhist country



研究の背景と目的

 まず、私の卒業論文[東2022]の概要を述べておく。鳥取と同じ日本海側の過疎地にあって、活力ある取組をしている北陸の2つの事例に衝撃を受け、因幡・但馬地域へのフィードバックを提言した。一つは新潟の限界集落に25年以上住みながら古民家を再生している旧東ドイツ出身の建築家、カールベンクスの活動である。カール氏は新旧融合・和洋折衷の画期的な古民家再生を進めており、過疎集落の人口を倍増させている。もう一つは「ごちゃまぜのまちづくり」を実践する社会福祉法人「佛子園」の活動である。これらの取組に接し、過疎地域を前向きにとらえる可能性を感じるようになった。 
 また、映画『ブータン 山の教室』(2019)からもおおいに触発された。標高4800メートルの高地にあるルナナ村の小学校に若い教師が赴任することになり、子供たちや村人から深く慕われるのだが、その青年教師は音楽の夢を捨てきれず、オーストラリアに旅立つ。しかし、シドニーでは心の葛藤が生まれ、自分にふさわしい居場所とアイデンティティを自問するようになる。この映画を鑑賞して、私も人間の幸福と居場所の関係について考えるようになった。研究室では2012年から8年連続でブータンの仏教遺産や古民家を調査してきたが、コロナ禍のため調査研究は中断を余儀なくされていた。昨年12月後半、3年ぶりにフィールドワークが再開され、私も参加することができた。私の関心は仏教そのものではなく、仏教の世界観を背景にしたブータンの国づくりのあり方である。
 

東スライド2 スライド2


仏教の世界観と国づくり

 私は仏教徒ではない。しかし、ブータンでの生活を短期間ながら経験して、敬虔な仏教徒たちが、経済重視ではない幸福な国づくりをめざしている姿に接し、考えさせられることが多くなっている。ここにいう幸福は、ハピネス(happiness)よりもウェルビーイング(wellbeing)という英語に近いものである。たとえばワールドカップで優勝した時の爆発的な喜びは、刹那的な幸福感、すなわちハピネスであるのに対し、持続的に心身が健やかな状態にある場合、それをウェルビーイングと呼ぶ。ウェルビーイングはSDGsの目標3でも使われている。人間の居場所は人それぞれに異なっており、その人間をウェルビーイングな状態に導くことが居場所の条件であろうと思っている。
 帰国後、研究室がご指導を仰いでいるチベット仏教史の大家、今枝由郎先生の一部の著作を読み返して、混迷する現代社会を正しい方向に導くさまざまな考えがある中で、やはり、仏教的な世界観は無視できないと再認識した。我々が参考にすべきは、古代インドの思想をよく継承しているスリランカなどの上座部仏教や厳しい修行を行うチベット・ブータン仏教であろう。ただし、私は仏教の素人なので、今枝先生やダライラマ14世の著書に導かれての発言になることをお許しいただきたい。


東スライド3 スライド3


ダライ・ラマ14世の杞憂

 ブータンといえば「幸せの国」であり、いわゆる国民総幸福量GNH(Gross National Happiness)に基づく国づくりがよく知られている。その考え方は世界の現状を憂いた仏教的認識に基づいている。ダライラマ14世の発言を引用しておこう。
   大きくなった家 小なくなった家族
   高まった利便性 なくなったゆとり
   増えた薬 損なわれた健康
   伸びた利益 薄まった絆
   これが私たちの時代だ。
 経済的な利益ばかりを優先し、競争に明け暮れた現代社会を風刺する鋭い解釈である。こうした利益最重視の競争社会ではなく、精神的な充足感を伴うウェルビーイングな社会をめざそうというのがGNH的な考え方だといえる。


東スライド4 スライド4


GNHの世界観-ブータン国王の発言から

 今からちょうど50年前の1972年、先代の第4代ブータン国王ジクメ・センゲ・ワンチュクは、国民総生産GNPに対置すべき国づくりの概念としてGNHを提唱した。ここでは当時来日した王妃の講演から引用してみる。
 「世界の人口の大半が、極度の経済的苦しみに直面していることからして、物質的発展が必要なことは自明です。と同時に、豊かな北半球でも、心配、不安、ストレスといった精神的苦しみが大きいことを考えると、精神的発展が必要なことは、それ以上に明白です。技術革新、世界市場化といった現象は、私たちの欲望および消費をますます煽り立てています」。 
 また、現在の第五代ジクメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュック国王は、GNHを世界的なスケールに拡大し、GGH(Gross Global Happiness)というべき概念を即位宣言の最後に述べている。この世界の生きとし生けるものすべての幸福と福利を目指すという宣言である。いま世界的課題となっている環境保護、持続的発展、循環型社会などにも通じる思考といえる。こうした世界的秩序の再編成にかかわる提言が、ヒマラヤの小王国からなされているのは驚くべきことである。混迷する世界において、ブータンの存在意義は、とてつもなく大きなものになっているのではないだろうか。


東スライド5
東追加図2 東追加図3 スライド5+追加2枚(菜食料理の昼食と薪ストーブ)


ブータンの経験ー生きている山間古民家

 これから、私がGNH的だと感じたブータンでの経験を述べてみる。
 まず、旅費について。コロナ禍以前から、ブータンでは、旅行客の規制があった。すべての訪問者にはガイドと専用車が必要である。一日の滞在費200ドルに加えて、環境保護税SDF(Sustainable Development Fee)65ドルを負担した。ところがコロナ後の外国人再受け入れにあたって、SDFは200ドルまで高騰し、外国人の滞在費は1日400ドルとなった。約5万5千円である。外国客は来るなと言っているようなものだが、こうした旅客規制は、観光による利益を優先せずに、国民の健康と国土の環境保護を重視していることの表れではないかとも思われる。
 2番目は市場経済の未成熟である。1961年に第3代国王が鎖国制度を廃して市場経済を導入したが、都市周辺を除く地方僻地の大半では、いまだに自給自足的な生活が送られている。山間部に立ち入ると、ホテルもレストランも商店もほとんどなくなる。だから私たちは、毎日のように農家で昼食をとった。そこで提供される庶民料理は、仏教に似つかわしい菜食主義が基本である。菜食中心でありながら、あまりにおいしいので、滞在中に4キロも体重が増加した。
 また、コテージのような宿泊施設に空調設備はない。しかし、食堂にも寝室にも必ず薪ストーブがあり、朝夕の寒さを凌ぐだけでなく、気持ちが癒され、心まで温かくなった。薪ストーブの薪は、販売品ではなく、各家が共有林から集めてきて、家の周りで乾燥させる。薪となる木材の伐採量は、政府によって決められている。


東スライド6 スライド6


コミュニティライブラリーの重要性

 今回の調査では2つのコミュニティ・ライブラリーを訪れた。一つはブータンの首都ティンプーの郊外農村にあるREADブータンである。READとは Rural Education and Development すなわち「農村教育と開発」の略称である。READにはもちろん「読書」の意味もあり、過疎農村地域において子供を中心に読書を啓発し、パソコン教育などを行うことによって、農村コミュニティの向上と変革をめざしている。このような施設がブータン国内に9か所ある。
 一方バンコクでは、東南アジア最大のスラム街とされるクロントイスラムを支援するシーカ・アジア財団を訪れた。この訪問のきっかけとなる出来事が日本であったのだが、やはり仏教と関係している。2021年、長野県上田市の国宝「安楽寺三重塔」を訪れた際、シャンティ国際ボランティア会の会長を務める若林住職から、記念品としてお守りを頂戴した。そのお守りは、三重塔修理の際、廃材となった屋根葺きのこけら材の破片をコットンの布袋に収めたものである。その木綿袋づくりを、若林住職は低所得者支援のためクロントイスラムの住人に依嘱されていた。このお話を聞き、スラムの訪問を希望したところ、タイのパートナー団体であるシーカ・アジア財団が対応してくださることになったのである。
 財団ではまず八木沢所長の講義を受けた。所長はなによりスラム街におけるコミュニティー・ライブラリーの重要性を強調された。財団の奨学金を受けたオラタイさんという若い女性がライブラリー所蔵の6000冊を読破し、チュラロンコン大学を首席で卒業して、今はカザフスタンの大使を務めていることを誇らしげに語られた。
 所長が取り組んだもう一つの重要な仕事は、スラムの緑化である。スラムに住む人々が廃棄物を分別して財団に持ってくれば、鉢植えのプランターと交換するプロジェクトである。20年ばかり前に行われたこの緑化プロジェクトによりスラムの小路や溝がかなり清潔になり、その状況の視察もした。開発途上国では、地域に根付いたコミュニティー・ライブラリーの存在が非常に重要であると痛感したしだいである。【続】


コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

魯班13世

Author:魯班13世
--
魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カレンダー
04 | 2024/05 | 06
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR