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幸福な居場所のあり方に係わる試考 ー仏教国ブータンのGNH的生活を体験して 《2022年度修論中間報告概要》 後編

東スライド7 
東追加図7 東追加図8 東追加図9
スライド7+追加3枚(ブータン蕎麦乾麺、佛子園B`s行善寺代表速水さん、JOCA南部)


龍岩寺ごちゃまぜBOX

 2022年11月19日(土)、鳥取県岩美町の龍岩寺で「過疎と居場所」をテーマとする講演会を開催した。私の卒論も発表させていただいたが、石川の佛子園や青年海外協力協会JOCAの中心メンバーも招聘した。佛子園ブータン事務所の中島所長にもZoomで参加していただいた。
 佛子園はブータン高地貧農支援のため、ブータン産の甘蕎麦の実を大量に輸入している。輸入した蕎麦の実は、日本国内で機械製粉・製麺され、佛子園やJOCAの施設内の蕎麦屋(居酒屋)で好評を博している。蕎麦粉の生産や食堂の運営は、障碍者の雇用と深く結びついている。先ほど紹介した信州の安楽寺がバンコクのスラムを支援しているように、佛子園という仏教系社会福祉法人はブータンの貧農支援をしている。素晴らしいことだと思う。
 佛子園本部の速水さんからは、「ごちゃまぜのまちづくり」を説明していただいた。ごちゃまぜとは「障碍の有無、性別、年齢、国籍、文化、人種や宗教、性的指向などあらゆる人が認め合い、つながること」を意味している。この施設は、保育園や介護サービス、ジムやプール、蕎麦屋などが複合しており、子供からお年寄りまであらゆる人が交流できる。年配者の終の住処となる特別養護老人ホームの疎外感とは真反対の、活力ある居場所がそこで実現していることには本当に驚かされた。また、施設内の「行善寺やぶそば」はブータン蕎麦のメニューをそろえ、活動後の交流の場としてとても賑わっている。お酒も飲むことができる。
 JOCAは、日本各地の過疎地で社会福祉法人を運営し始めている。鳥取県西伯郡の南部町も、昨年6月に佛子園的な施設を開業した。温泉やジム、介護施設のほかに、やはり「やぶ勝」というブータン蕎麦の店があり、交流の場となっている。じつは私は夏休みに10日間、JOCA南部でインターシップを体験した。


東スライド8 スライド8


ブータン「草の根」事業

 佛子園ブータン事務所長の中島さんからは、ブータンにおけるグラスルーツ(草の根)事業についてご説明いただいた。中島さんは、2014年から3年間、JICA草の根事業で、障碍者理解促進のプロジェクトを担当された。ブータンでは障碍者支援の国の補助金はない。そこで、特別支援学校などで啓蒙活動や演習をおこなったり、障碍者が手に職を持てるよう研修を実施した。
 2022年度から4年間、JICA草の根事業が再開されている。おもに障碍者の就労支援を目的とし、佛子園式の「ごちゃまぜ」福祉施設をブータンにも造ろうと構想されている。ちなみに、中島さんは鳥取県生まれであり、2020年より情報交換を続けてきた。昨年末のブータン訪問で初めてお目にかかることが叶い、民俗遺産博物館(Folk Heritage Museum)のレストランで、創作的なブータン料理を食べながら、交流をさらに深めることができ喜んでいる。


東スライド9 スライド9


ウクライナ等避難民の支援

 今年度の前半はウクライナ避難民の支援活動にもエネルギーを注ぎ、10月4日にはウクライナ避難民の居場所に関わる講演会、5日に在日ウクライナ人音楽家のチャリティー・コンサートを開催した。これらのチャリティ活動により、50万8千円の募金が集まり、ユニセフの緊急避難民窓口に送金することができた。
 日本には現在2000人以上のウクライナ避難民がいる。講演会に先駆けて、主に日本海側の過疎地に居着いた移住者を訪ね、インタビューすることもできた。なにより驚いたのは、出雲に逃れてきた4名のロシア人である。彼らはサンクトペテルブルグの日系IT企業で働いていたが、一人の男性がモスクワで反戦デモに加わって拘留され、最前線に派兵される危険性が高まったので、日本人のCEOが4人全員を日本に避難させ、知り合いの「つて」を頼って、出雲に住まわせている。
 こうして地方を拠点としながら、彼らはウクライナ避難民の雇用や住宅を支援するドポモーガ(Dopomoga.jp)というサイトを立ち上げている。ITに強いかれらは、どこにいても支援サイトの運営が可能である。家賃や生活費が安い地方のほうが暮らしやすいと考えておられるようだ。田舎暮らしの範を外国人が示してくれているように思う。
 これを受けて、9月には北陸のウクライナ避難民を訪ねた。そこで9人からインタビューしたところ、田舎暮らしがしたくて、地方に来たわけではなく、言語学校や高校からオファーがあったので、砲火から逃れられるならどこでもいいということで国外に脱出したかったという実情を知った。
 ロシアの4名も、来日当初は、まさか出雲に住むとは思いもよらなかったけれども、住んでいるうちに日本の地方は、静かで安全なことが分かり、癒やしの場所だと感じているそうである。戦火・砲火に苦しんだウクライナの避難民にとっても、この静けさと安全こそが、彼らの精神的安寧、すなわちウェルビーイングな状態を取り戻す糧となっていることに少しずつ気づいていくのではないか、と期待している。


東スライド10 スライド10


戦争と仏教

 この一年、世界はロシア-ウクライナの戦争問題で揺れに揺れた。平和で幸福なはずの仏教国ブータンも、戦争と無縁ではなかった。2003年、南に隣接するインド領アッサムの独立派ゲリラがブータン国内に侵入してきたため、戦闘を余儀なくされた。軍事行動を開始するにあたって、当時の第4代国王は中央僧院の声明博士に訓辞を依頼した。兵士に向けた高僧のスピーチを一部引用する。
   「あなた方には、あるいは夫として、子供として、親として、兄弟として、友達として、愛しい人がいる。それと同じように、
   敵対相手であるゲリラ兵の一人ひとりにも、愛しい人がいることに変わりない。それゆえにあなた方は慈悲の心を
   もたねばならず、仏教徒としては殺生が認められると思っては絶対にならない」
 これから軍事作戦に出ようとするそのとき、僧侶は、敵対するゲリラに対して慈悲の心で接するよう指示したのである。まさに異例の訓辞と言わざるをえない。
 私たちは、昨年12月22日にブータンに入国し、そのまま標高4,000mのドチュラ峠を超えた。峠はブータン人にとって天と地の境となる聖域であり、古来、仏塔を設ける習慣がある。ドチュラ峠には108基の仏塔が群集している。それは、2003年のアッサム・ゲリラとの戦いで亡くなった両軍の兵士を弔う供養塔だったのである。
 今年度は私にとっても激動の一年であった。多くの活動に手を染めたが、それが上手くいったのか、いかなかったのか、自分でもよく分からない。その活動の蓄積をこうして仏教的世界観を軸にすえ整理してみたものの、はじめに述べたように、私は仏教には不案内であり、自分の発言に自信がもてないでいる。みなさまのご指導・ご鞭撻をお願いする次第である。【完】(東将平)


《参考文献》
1.浅川編(2021)「奇跡の雪山-ブータンとチベットの八年間」『能海寛と宇内一統宗教』同成社
2.浅川編(2022)『ブータンの風に吹かれて-中後期密教空間の比較文化』公立鳥取環境大学開学20周年記念号
3.東将平(2022卒論)「日本海側過疎地の活性動態を探る-北陸の地域振興例と因幡・但馬へのフィードバック」公立鳥取環境大学
4.ジェームズ・アレン(2003)『「原因」と「結果」の法則』(坂本貢一訳)サンマーク出版
5.池上彰(2014)『池上彰と考える、仏教って何ですか?』飛鳥新社
6.今枝由郎(2003)『ブータン仏教からみた日本仏教』NHKブックス
7.今枝由郎(2008)『ブータンに魅せられて』岩波新書
8.今枝由郎(2013)『ブータン 変貌するヒマラヤの仏教王国』大東出版社
9.今枝由郎(2021)『ブッダが説いた幸せな生き方』岩波新書
10.川鍋征行(1981)「ニーチェの仏教理解」『比較思想研究』第8号
11.ヴェロニック・クロンベ(今枝由郎訳2003)『ブッダ、生涯と教え』大東出版社
12.リチャード・ゴンブリッチ(浅野孝雄訳2018)『ブッダが考えたことプロセスとしての自己と世界』サンガ
13.アルトゥール・ショーペンハウアー(西尾幹二訳2004)『意志と表象としての世界』中公クラシックス
14.アルトゥール・ショーペンハウアー(鈴木芳子訳2018)『幸福について』光文社古典新訳文庫
15.ダライ・ラマ14世(今枝由郎訳2003)『幸福と平和への助言』トランスビュー
16.ダライ・ラマ14世(三浦順子訳2012)『ダライ・ラマ 宗教を越えて 世界倫理への新たなヴィジョン』サンガ
17.フリードリヒ・ニーチェ(西尾幹二訳1991)『偶像の黄昏/アンチクリスト』白水社イデー選書
18.馬場紀寿(2018)『初期仏教 ブッダの思想をたどる』岩波新書
19.宮元啓一(1995)『仏教誕生』ちくま新書
20.宮元啓一(2006)『仏教の倫理思想 仏典を味読する』講談社学術文庫
21.宮元啓一(2015)『ブッダが考えたこと 仏教のはじまりを読む』角川ソフィア文庫
22.ワールポラ・ラーフラ(今枝由郎訳2016)『ブッダが説いたこと』岩波文庫
23.フレデリック・ルノワール (今枝由郎・富樫子訳2010)『仏教と西洋の出会い』トランスビュー
24.ジャン=フランソワー・ルヴェル、マチウ・リカール(菊地昌実・高砂伸邦・高橋百代訳1998)『僧侶と哲学者 チベット仏教をめぐる対話新評論 (新装版2008)
25.アントワーヌ・レリス(土居佳代子訳2016)『ぼくは君たちを憎まないことにした』ポプラ社
26.渡辺一夫(1964)『私のヒューマニズム』講談社現代新書
27.渡辺一夫(1972)『寛容について』筑摩叢書
28.今枝由郎訳(2013)『日常語訳 ダンマパダブッダの〈真理の言葉〉』トランスビュー
29.今枝由郎訳(2014)『日常語訳 新編スッタニパータブッダの〈智恵の言葉〉』トランスビュー
30.中村元訳(1984)『ブッダのことば スッタニパータ』岩波文庫
31.Kunzang Choden(2008)Chilli and Cheese :Food and Society in Bhutan , Bangkok, White Lotus Co.,Ltd

《参考サイト》
(1) 東将平(2022卒論)「日本海側過疎地の活性動態を探る-北陸の地域振興例と因幡・但馬へのフィードバック」公立鳥取環境大学 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2526.html
(2)「龍岩寺ごちゃまぜBOX(1)」
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2628.html
(3)「龍岩寺ごちゃまぜBOX(2)」
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2629.html
(4)「龍岩寺ごちゃまぜBOX(3)」
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2647.html


《連載情報》ウクライナの風に吹かれて
(1)CFU47ナターシャ・グジー 鳥取公演 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2606.html
(2)8月23日の記者発表と報道 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2607.html
(3)県民ふれあい会館ホールの下見 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2608.html
(4)鳥取大学での広報活動 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2609.html
(5)学術講演会予報(1) http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2610.html
(6)故郷-ふるさと http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2612.html
(7)『政経レポート』1500号-CFU47鳥取公演 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2613.html
(8)『政経レポート』1501号-学術講演会予報(2)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2615.html
(9)但馬の報道 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2616.html
(10)播磨・河原・大正琴 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2618.html
(11)ユリアさん登場、講演会報道 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2619.html
(12)FM鳥取に出演します http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2620.html
(13)FM鳥取に出演しました http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2621.html
(14)開場時刻の変更! http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2622.html
(15)当日券の販売  http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2623.html
(16)講演会満員御礼 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2624.html
(17)満員御礼 CFU471鳥取公演 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2625.html
(18)WWUT-徳島公演 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2626.html 
(19)環謝祭に出店 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2627.html
(20)論説コラム「風速計」 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2631.html 

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Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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