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ウクライナ避難民支援と人類社会の未来像(1)-民族共生/ごちゃまぜ型の居場所に係る考察

 9月22日(金)に開催された令和4年度サステナビリティ研究所成果報告会(SDGs特集)での講演は、オンライン形式で半時間以内という時間制限がきっちりあったので、科白をノートに埋め込み音読しました。以前にも述べたように、視聴者は10名足らずという悲しい状態でしたので、ここに科白をつないだ発表原稿を掲載しておきます。


ウクライナ避難民支援と人類社会の未来像
-民族共生/ごちゃまぜ型の居場所に係る考察



1.ブータンが教えてくれた居場所のあり方 

 GNHからSDGsへ   環境学部の浅川でございます。わたしが最後の発表のようで、まだ視聴してくださる方がいらっしゃるのか分かりませんが、半時間ばかりスピーチさせていただきます。さて、昨年2月にロシアのウクライナ侵攻が始まりました。自分が生きている間にこのような20世紀的「侵略戦争」が勃発するなどとは思いもよらず、かなり気が動転しまして、遠い極東の地にいてやれることは何か、と考えたあげく、日本が受け入れているウクライナ避難民の問題を考察しようと思うに至りました。もっとも、わたくしどもはこれまで東欧研究とはほぼ無縁であり、専門分野はアジアの地域研究です。とりわけ、この10年間はブータンの宗教文化と民族建築に係る調査に熱中しておりました。本日はブータンの話題から始めて、最後にウクライナ等避難民の問題でまとめようと思います。うまくいくかどうか、わかりませんが、お付き合いください。
 さて、SDGsで本研究が最も関与するのは、目標3の「GOOD HEALTH AND WELLBEING」であろうと思います。その和訳は 「すべての人に健康と福祉を」となっていますが、残念ながら、良い訳とは言えません。wellbeingを「福祉」と訳すのはちょっと納得できない。HEALTHが身体(からだ)の健康を表すのに対して、WELLBEINGは心(精神)の健全さを意味する言葉だからです。ですから、GOOD HEALTH AND WELLBEING は、「心と体を健やかに」とでも和訳するのがよいように思っています。
 この心身の健全さの問題は、ブータン国王が50年前に提唱した「国民総幸福GNH」の概念と重なりあうところが少なくありません。GNHは仏教的な世界認識を背景にしています。利益最重視の競争社会ではなく、精神的な充足感を伴う wellbeing な社会を目指そうというのが国民総幸福量GNH、Gross National Happinessの考え方だといえるでしょう。
 GNHは、ブータン王国の第4代国王ジクメ・センゲ・ワンチュクが1972年に提唱したものです。世界の人口の多くが、極度の経済的苦しみに直面していることからして、物質的発展が必要なことは自明ではあるけれども、豊かな北半球でも、不安やストレスなどの精神的苦しみが大きいことを考えると、心の充足が必要なことは、それ以上に明白であるとして、すべての生きとし生けるものの幸せ、あるいはウェルビーングを願う、崇高かつグローバルな理念をブータンという小さな国の国王が主張したのです。こうしたGNHの考えは、SDGsの目標3だけでなく、いま世界的課題となっている環境保護、持続的発展、循環型社会の構築などに通じる思考です。こうした世界的秩序の再編成にかかわる提言が、ヒマラヤの小王国から50年も前に発せられたのは驚くべきことです。

 ブータンに探る居場所の課題  GNHやウェルビーイングの問題と絡めて、ブータンでしばしば考えさせられるのが「居場所」の問題です。「居場所がある、ない」という議論は、日本語ではよくしますが、これまで英語や中国語に訳そうとして苦労してきた経験があります。敢えて英訳するなら、wellbeing place for dwelling とでもなるでしょうか。居心地の良い場所、ということですね。
 2019年にリリースされた『ブータン 山の教室』 という映画をみてから、居場所の問題をとくに意識するようになりました。映画のあらすじを述べてみます。首都ティンプーで教師の研修生となったウゲンですが、ミュージシャンになる夢を捨てきれず、オーストラリアに渡ろうとしていました。ところが、ビザが下りる直前になって、標高4800メートルの山間僻地にあるルナナ村の小学校に赴任するよう命じられます。1週間以上山道を歩いてルナナ村に到着するのですが、あまりにみずぼらしい学校の建物や宿舎などをみて、ウゲンは「自分には無理だ、すぐに帰りたい」と村長に直訴します。
  ところが、その翌日から、教育を受けたいと心から願う村の純真な子供たちに動かされ、またウゲンを死んだヤクの生まれ変わりだと信じる村長や村人に慕われて、ウゲンはルナナ村での教師生活に生きがいを覚えるようになっていきます。そこではまた、大自然の支配者にむけて、鶴のように無心に歌う少女の「ヤクに捧げる歌」を聴き、歌あるいは音楽の本質を教えられます。その後、村長らの勧めもあって、大雪の積もる冬になる前に首都にいったん戻ることになり、結局、オーストラリアに渡って、シドニーのバーで毎夜流行歌をうたう日々を始めます。しかし、客のだれも自分の歌に耳を傾けることがなく、自分の音楽に無力感を覚え、歌うのを突然やめてしまいます。そして、ルナナ村で教わった「ヤクに捧げる歌」をアカペラで歌い始めるシーンで映画は唐突に終わります。


 居場所の理想と現実  人間にはその人にはふさわしい居場所があり、居場所は人物によって異なります。自分の居場所にいることで精神的な充足を感じますが、その「幸福」とは刹那的なハピネス(happiness)ではなく、持続的ウェルビーイング(wellbeing)な状態であり、映画の主人公ウゲンの場合、あこがれの地であったオーストラリアに渡って初めて、自分の居場所はルナナ村であることに気付いたと言えるでしょう。
 しかしながら、近年、ブータンでは、富を求める若者の国外流出が激増しています。オーストラリア、アメリカ、カナダなどに人気がありますが、ワールドカップ・ドーハ大会前後からカタールへの移住も増えてきています。この夏のハ地区の守護神の祭りでは、カタールで働く若い女性と知り合いました。驚いたことに、彼女はドーハのスターバックスで働いており、2週間の夏休みで帰省していたのです。このように、海外に移住する若者がビザを取るため守護神の参拝や仏僧を招いて祈願の儀式を頻繁におこなっています。GNH量が高く、「世界一幸せな国」であるはずのブータンから、経済的利益を求めて国外流出が進む。なんとも皮肉な現象ですが、海外流出組は永遠に帰国しないわけではありません。5年程度で戻ってくる人もいれば、海外での永住権を獲得する人もいるようです。少々残念ですが、これが映画とは異なる現実です。【続】


9月22日講演パワポ(サス研)web


《連載情報》ウクライナ避難民支援と人類社会の未来像-民族共生/ごちゃまぜ型の居場所に係る考察
(1)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2682.html
(2)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2694.html
(3)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2697.html

《関連サイト》報告書『居場所とマイノリティ』の刊行と関連講演
(1)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2685.html
(2)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2688.html

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Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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