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ウクライナ避難民支援と人類社会の未来像(3)-民族共生/ごちゃまぜ型の居場所に係る考察

3.ウクライナ避難民と地方居住  

 出雲に逃れたロシア人  ここからウクライナ等避難民の話題です。在留ウクライナ人の数は今二千人を超えています。その国内分布は東京、神奈川、大阪など大都市圏に集中しています。鳥取や島根など日本海側諸地域への避難者は大変少ない。日本の人口分布そのままの「過疎過密」状態が読み取れます。これは必ずしも避難民の指向を反映したものでないことは後で述べます。わたしたちは、日本やブータンで、田舎暮らし、あるいは過疎地の居場所の問題を長く考えてきましたので、避難民についても地方居住の観点から考察しようと思います。
 わたしたちが最初に接触したウクライナ戦争の被害者はロシア人でした。ロシアの古都サンクトペテルブルグの日系IT企業で働いていた4人のロシア人が昨年6月、島根県出雲市に避難してきたのです。そのうち1名の男性がモスクワで反戦デモに加わって拘留されました。保釈されたものの、懲罰としてウクライナの最前線に派兵される可能性が高まったので、日本人のCEOが4名を日本に連れ帰って来たのです。なぜ出雲かというと、CEOとコネのある人物が出雲にいて、その人物に支援を要請し受諾されたからです。4名は、まさか出雲に滞在することになるとは思っておりませんでしたが、出雲にいる長所・短所を以下のようにまとめています。まず長所ですが、
  ①都市部に比べて家賃が安い、物価が安い、暮らしやすい。
  ②優秀なIT技術者ならどこにいても、世界中の仕事ができる。
  ③戦争のストレスが長閑な田舎暮らしで癒される。
ですが、短所については、
  ④友人・知人が少ない。外食しようにも、仲間がいない。 
とのことです。
 4名のロシア人は、ウクライナ避難民の雇用や住宅を支援するネット上のサイト「Dopomoga」を立ち上げ、出雲を拠点に活動を続けています。情報時代の田舎暮らしを実践している点、わたしはとても感銘を受けています。

 彦根のキッチンカー  2022年の9月初旬、彦根から福井、石川をまわり、9名のウクライナ避難民と面談しました。滋賀県彦根はウクライナ人の運営するキッチンカーで有名です。日本人男性に嫁いだ娘を頼り、イリーナ・ヤボルスカさんは彦根に移住してきました。支援してくれる日本人に恩返しをしたいという思いとともと、日本人に「ウクライナの日常文化」を知ってもらいたいと考え、彦根城下に「ウクライナ・スイーツキッチンカー」Faina(ファイナ)をオープンしています。イリーナさんは英語も日本語も話せません。言葉によるコミュニケーションが難しいけれども、食べ物ならなんとかなると考えられたようです。ほんと、現場で観察していても、スマホの翻訳機能以外、何も使えないのに、よく意思疎通できるものだと思いました。
 メニューはウクライナのクレープ「ブリンチキ」、伝統的なドリンク「ウズバル」、オリジナルの「ファイナシェイク」です。
・ブリンチキの中身は、チキン(温)、サーモン(温)、チーズ(冷)の3種類です。
 キッチンカー「ファイナ」は、レンタルでスタートしましたが、クラウドファンディングで寄付金が貯まったので新車を購入し、その後、東京丸の内店、大阪淀屋橋店をオープンされたようです。まるで田舎志向がありませんが、これは大都市に滞在する多くのウクライナ人の「職場」をめざしているからだそうです。ただ一つ心配になることもありました。ファイナのメニューは三品しかないのです。このたびは取材ということもあり、二日連続でキッチンカーを訪問しましたが、ただの旅行者なら一度の訪問で十分であったでしょう。なかなかリピータを確保しにくい状況にあり、持続的な経営が不安視されるところです。知人がキッチンカーを経営したことがありましたが、その人物の発言によると、キッチンカーは90%閉業する、といいます。その人の場合、800万円で購入したキッチンカーの新車が、売却時には200万円にまで値を落としたそうです。


 福井と能登の学校にて  福井県には11人のウクライナ人が当時避難しており、内8名が福井ランゲージアカデミーで日本語を学んでいました。ランゲージアカデミーを運営する株式会社グローバルリンクが、「日本語教育の無償提供2年間」と「住居の無償提供6か月」をフェイスブックにアップしたところ、応募があったとのことです。女性5名と面談しました。なぜ日本か、なぜ福井か、という質問に対しては、「あまりにもウクライナが危険な状態にあるので、身元保証人を確保して、どこでもいいから逃げたかった。たまたま来たのが福井だった」とのことです。日本語を2年学んだ後、都市部で就職したいそうです。ちなみに、ウクライナの農村も激しい砲火にさらされているが、農民は身元保証人を確保しにくいので、出国できないということも聞きました。
 石川県に避難しているウクライナ人は17人でした。そのうち日本航空石川高校に4人が避難しており、親子2名と面談しました。この高校は輪島市の「のと里山空港」に隣接するマンモス校であり、以前から多くの留学生を受け入れていました。冬には積雪2メートルになるという超過疎地ですが、多数のCAや整備士を輩出しており、活力があります。
 面談したのは、ハルキウ出身の親子です。やはり石川校のネット上オファーに接して応募し、移住が決まったと言います。母のナターリアさんは母国では会計士として活躍されていました。今は高校学食のキッチンで働いています。もっぱらスマホの翻訳機能を使って会話していますが、最近は日本人の同僚がロシア語の勉強をして話しかけてくれてるそうです。ナターリャさんは英語も苦手なので、わたしたちに対しても、スマホの翻訳機能を使い、自分の気持ちを強く訴えられました。毎日、朝晩ハルキウの情報をチェックし、夕方夫に電話をかける。何人なくなったのか、どこを砲撃されたのか・・・戦禍がおさまればハルキウに帰る、と聞きました。娘のバレリアさんは、英語がとても上手い。本校に入学し、今は日本語ばかり学んでいるけれども、将来的には日本の大学に進学し、大都市で就職したい、そうです。
 能登半島の豪雪過疎地域で暮らすウクライナ人たちは、やはり田舎暮らしを望んでいたわけではありませんが、ここでは娘が高校の支援を受ける代わりに、母親が厨房で働き、学校の運営に貢献しているあり方に注目すべきと考えます。

4.双方向支援をめざして

 出雲を拠点にして4名のロシア人たちがたちあげたウクライナ避難民支援のサイト「Dopomoga」を率いる日本人のCEO牧野さんは、多くのウクライナ人と接触した感想として、「避難民は補助金や寄付金で生きているのは気持ちが悪い、みな働きたがっている」ことを強調されました。また、ウクライナン側への移住オファーが東京などの大都市圏に偏向していることに問題があるとして、いくつかの地方都市を移住先として斡旋され始めています。多くのウクライナ人は、東京しか知らない。しかし、東京は雇用や住み心地が良いところだとは必ずしも言えないので、それらの条件をクリアした地方都市を移住者に紹介するよう努めていると仰いました。 
 わたしは外国からの避難者・移住者の支援にあたって、社会福祉法人「佛子園」の提唱する「ごちゃまぜのまちづくり」がそのまま適用できると思っています。くりかえしますと、ごちゃまぜとは、「障害の有無、性別、年齢、国籍、文化、人種や宗教、性的指向などあらゆる人が認め合い、つながること」です。この輪のなかに移住者・避難者も放り込んでしまえばいい。ネックとなるのは言語ですが、数か所で移住者等と接触した結果を申し上げますと、いまはスマホの翻訳機能等があり、なんとかなると感じました。ここで重要となるのは、やはり佛子園が主張している「双方向支援」の考え方です。一方が他方に寄り添うのではなく、双方が寄りあって支えあう構図が理想的だということです。双方向の支援と言っても、障碍者・認知系高齢者の場合は容易でありませんが、海外からの移住者・避難者の場合は、適切な「労働」を確保すれば実現が難しいとは言えません。置かれた社会状況がやっかいだから、と、移住者をブラックボックスにいれてしまうのではなく、彦根のキッチンカーだとか、能登半島の高校学食厨房のように、雇用=労働によって交流がはぐくまれ、移住者の「居場所」が確立していくのだと考えます。このように、ごちゃまぜの理念に基づく双方向支援は、避難者・移住者のウェルビーイングな居場所の確保に貢献であろうと考えております。
 以上でわたしの発表をおわります。ご清聴ありがとうございました。今日の発表内容は、2023年3月に刊行した報告書『居場所とマイノリティ』に詳しくまとめております。入手希望の方はご一報ください。【完】


《連載情報》ウクライナ避難民支援と人類社会の未来像-民族共生/ごちゃまぜ型の居場所に係る考察
(1)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2682.html
(2)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2694.html
(3)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2697.html

《関連サイト》報告書『居場所とマイノリティ』の刊行と関連講演
(1)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2685.html
(2)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2688.html

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Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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