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菅原遺跡報告書批評のための習作(5)

土塔03整備01


大野寺土塔最上層の伏鉢状遺構をめぐって

 その後のやりとりでは、行基の造営とされる土塔(堺市大野寺、727年)に話題がひろがっていった。菅原遺跡から土塔が連想されるのは自然な流れである。ともに行基と関わるモニュメントで、おまけに円形(多角形)の構造物を包摂するからである。2本目のメールを引用抜粋する。
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大野寺土塔の最上層は、十二層までが方形瓦葺きなので、十三層目も瓦葺き屋根が載るのは間違いないでしょうが、十三層の基礎の粘土ブロックは円形なので、伏鉢状あるいは隋代・唐代の敦煌壁画にあるような亀腹が伸びたような構造物の上に方形ないし八角形の屋根が載るのかなと思いますが、いかがでしょうか。
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 ついに来ました。これを質問できる人、回答できる人が日本に何人いるだろうか。土塔最上層については、暗中模索の悩みの種ではあるけれども、少なくとも、現地に模型復原してあるような、夢殿型八角堂を頂部(13重)に建てるのは似合わないと思い、以下のような構造を夢見ている。
 ①まず13重床面の円形粘土ブロック上に低めの壁を立ち上げ、その上に屋根をかける。
 ②その場合、屋根は下の12層にならって盛土上に瓦直葺きにするしかない。屋根は短く、1段か、3段前後の長さにとどめ、ドーナツ状の裳階のようにみせる。
 ③裳階の熨斗瓦の上に再度露盤状の土をもりあげて伏鉢構造にするが、伏鉢は露出にして相輪を立ち上げる。


土塔01 土塔02頂部 土塔出土状況


 こんなイメージをもっているのだけれども、最大の問題は瓦である。円形屋根に瓦を葺く場合、どうしても天壇風になるので、瓦は台形に造らなければならない。一列なら現場の調整もあるだろうけど、何段か葺き重ねるとなれば、専用の台形瓦が要るのではないか。現場あわせでどこまでやれるか、にかかっている。本瓦の現場あわせで、円錐形屋根を3段前後葺くことができれば、東アジアの匂いを残したインド風立体マンダラの造形になるかもしれない。こういう自分の思いを素直に書き留めたところ、さらに返信があり、①②③は「全く想像もしてなかったのでびっくりしました」が、「たしかに12段以下と雰囲気は合」うという評価を頂戴した。これと関連するのは『行基菩薩行状絵伝』に描かれた土塔であり、頂上に大きな宝珠状のものが載っており、「土饅頭状のものが残っていて継承されていた」可能性があるとのこと。そして、以下のように、平瓦の精査に強い意欲を示された。
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「本瓦の現場あわせで、円錐形屋根を1~2段葺」いていたかどうかは、台形平瓦が存在するかどうかにかかっていると思いますが、台形平瓦の存否については、現場で打ち欠きなら、破断面がある平瓦の総点検が必要ですね。丸瓦・平瓦は、残りが良かったり、作り方が良くわかったりする個体をピックアップする程度で、あまり丹念には見ないので、問題意識をもって総点検する必要があります。
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土塔03整備02模型 12段目までの意匠と最上層の夢殿的八角堂が整合的ではない?(土塔現地模型)

円形に本瓦を葺く方法

 わたしはさらに自分のアイデアを披露した。箇条書きにまとめる。
  1)台形状瓦の場合、円形ブロックの直径から、どれくらいの長さ(寸法)になるのか、いわゆる上底と下底の差が何㎝あるのかを計算してみる必要がある。
  2)上底と下底の長さにたいした差がないなら、そのまま葺いても、左右の平瓦の隙間を丸瓦で覆うことはできる。その場合、現場で瓦を打ち欠く必要はない(軒瓦の部分に隙間ができていくぶん醜くはなるけれど)
  3)打ち欠きせずに平瓦を並べた隙間を丸瓦で覆った後、1列目の上端は粘土を高めにかぶせて止める。この土盛は2段目の瓦座を兼ねる。すると、2列目の平瓦を1列めの瓦列に接触させることなく、1列目と同じように円形に直葺きできる。2列目の上端にも粘土で瓦座をつくる。すると、3段目も葺けるかもしれない。これで行けところまで行くという考えではどうか?
 
 これについてもコメントがあった。「平瓦を削らずに扇形に並べることができれば一番簡単」であり、「土塔・頭塔の場合、雨漏りの心配は全くしないで良いので、少々隙間が大きくなっても葺土を多めにして丸瓦をのせれば収まりそうな気がします」とのことで、安堵したしだいである。なんか、すごく勇気づけられた。土塔で瓦の再精査が進まんことを祈るばかりである。


敦煌莫崗窟壁画にみる 古代中国の宝塔 北周~盛唐(6~8世紀) 敦煌壁画と統一新羅(8世紀)仏国寺の 多宝塔 左:敦煌莫崗窟壁画にみる宝塔(6~8世紀)。屋根は宝篋印塔的。
右:(左半)敦煌莫崗窟壁画にみる「多宝塔」風建物。ただの二階建建物の可能性あり。(右半)統一新羅仏国寺の「多宝塔」=二重を八角円堂とする楼造(8世紀)。仏国寺のやり方なら8世紀の日本でも可能だが・・・



敦煌壁画の引用に騙されるな!

 さて、宝塔のように、伏鉢状構造物を方形屋根で覆うことが土塔・頭塔において可能か、と問われれば、やはり4本柱の痕跡がみつかっていないので難しいと答えざるをえない。元文研風に「解釈」するならば、土塔の円形粘土ブロック上に12本の柱を立て、うち4本を屋根まで立ちあげれば可能、となるけれども、そういう桃山時代の構法を奈良時代に持ち込むのは安易すぎる。空海以前と以後を短絡的に「連続」して結びつけるのは、くりかえすまでもなく、危険である。
 わたしは、奈良時代以前に、空海以後のような宝塔・多宝塔はまだなくて、その代わりに存在したのが、頭塔や土塔であったろうと考えている。敦煌壁画に宝塔(や稚児棟)が描かれているから、遣唐使はその種の建物(や細部)をみていてもおかしくない、という毎度のベタベタ解釈を元文研も示しているが、「敦煌壁画に宝塔(や稚児棟)が描かれている」という事実と「日本に宝塔(や稚児棟)が存在した」という事実は決してイコールにはならないので、騙されてはいけない。ただ、宝塔に近い構造物が存在したとするなら、土塔と頭塔の最上層しか考えられないとは思う。そうであったとしても、この2例をためらいもなく中世的な造形にするわけにはいかない。遺構にあわせて素朴に設計したいと考えており、その構想を今回披露したことになる。なにより土塔の分析が重要であり、そこで奈良時代的な円形構造物の復元が成就するなら、これまで小ぶりの八角堂で逃げてきた頭塔最上層も描きなおす必要があると思っている。


頭塔01楊復元図2種 楊鴻勛の頭塔復元3案のうちの方案1(上)が浅川の土塔復元構想に近い。4本柱を使わず、瓦直葺き。 楊の方案2(下)は豪壮華麗だが、中世的すぎる。方形屋根をかけるため四本柱が必要になる。
頭塔03パース 楊鴻勛の復元案に刺激されて作図した浅川の頭塔復元パース。中世宝塔的な造形を嫌い、小ぶりの八角円堂で頂部をまとめているが、土塔の検討次第では改定する用意がある。【この項、完】


《連載情報》 菅原遺跡報告書批評のための習作
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(17)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2752.html

《関係サイト》
大僧正行基の長岡院に関する継続的再検討《2023年度卒論中間報告》
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2675.html
行基と菅原遺跡に係る意見交換@松山(8月)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2686.html
寧楽徘徊(Ⅱ)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2704.html

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Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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