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うだつの上がらぬ町家(1)

0107古町01外観03


猫と娘に見送られ

 地震、空港事故、火災、葬儀などいろいろあったが、家族に限っていえば、この正月は久しぶりに全員が揃い、平和な時間を過ごすことができた。淀の競馬場に出かける者、大阪湾まで釣りに行く者、ママさんバレーを掛け持ちする者などいて、団結的な行動をとるわけでは決してないが、いつも誰かが何かを買ってくるので、集まればただちにお茶にしよう、珈琲にしようとあいなり、ブレイクの時間が長くなる。また、娘が母親に楽々スマホを買ってあげると言い出して、ドコモに3名で乗り込んだ。残念ながら、家内の適応は20%程度にとどまる。電話を受け取り、かけるのが精いっぱいだから、ガラケーのままの方がよかったのかもしれない。手続の手間やレッスンの甲斐もなく、いまだラインすら使えない状態だが、何度も使い方を教えるため母親のまわりに子供たちが群がることとなった。ドコモショップは、同じような高齢者で溢れていた。いまこの世代に売れる機種が求められているのだと思う。ITに弱い高齢者、身障者用のスマホを上手く開発すれば、おおいに売れるだろう。いまはまだユニバーサルデザインのレベルに達していない。
 1月7日(日)、翌日は成人式だからまだ休みは続いていたが、夫婦は所用があり、一足先に鳥取に戻ることになった。早朝から大阪湾に釣りに行った1名を除く2名は、いつもと反対で見送る側になり、母との別れを惜しんでいる。猫も二階部屋の窓際からその光景を眺めていた。


0107古町01外観01


うだつの上がらぬ町家の正体

 午前中に奈良を出発し、午後2時、大原古町に到着した。例の買い物の問題で、地元の建築家Mさんとともにもう一度内部に入って観察しようということになったのである。1階の土間は広くてよかったが、Mさんは一目視るなり、「壁が少ない」。耐震構造の基準に達していない、ということだ。壁の少なさは本棚を並べる壁を内部に復活することで対応できる。書棚の裏の壁だから、伝統的な構法に従う必要もなかろう。外壁の断熱も経費がかかるらしいが、やはり一面書棚として、裏に断熱・防湿シートを張り、書棚の前に明かり障子の建具を通せば一定の断熱効果はあるだろうし、見栄えも落ち着く。表の格子窓(掃出し)の内側にも障子を通すか、外側に雨戸をつけるしかない。この場合、右手で盛んだったというミツマタ和紙の障子紙を使えれば最高だろう。


0107古町02土間内部01 0107古町02土間内部06天井01 0107古町02土間内部05 


 ぼろぼろになった新しい天井を取っ払って、大引や根太を露出させたいと思っていたのだが、それらの古材を残すのは表側のみで、奥側は天井の裏側に鉄骨をしのばせているようだ。ただし、わたしは文化財建造物の鉄骨構造補強を支持する者なので、一部に鉄骨を露出させてみせるのも悪くないと思っている(鉄骨も新材に差し替えるべきだろうが)


0107古町02土間内部02 0107古町02土間内部03 0107古町02土間内部04


 2階はたしかに雨漏りが目立った。早急の修復が必要である。少なくとも、当該部分の屋根にブルーシートを被せる必要がある。畳を復活させるつもりはなく、断熱材の上に板敷フロアとする。続き間はすべて多機能スペースとし、寺子屋風の講演会を開いたり、OBや家族のゲストハウスとする。外からみると、2階のデザインは古町特有の袖壁(古町流うだつ)のない格子窓だけのシンプルなものであり、1階とよく調和しているけれども、2階内部をみれば材はさほど古くなく、おそらく元は茅葺屋根の平屋建物であったろう。この町家を「書庫兼アトリエ」のセカンドハウス(兼小規模カフェ)とする場合、正直、2階は不要であり、撤去しても良いぐらいだが、撤去費と新しい平屋の屋根づくりの費用は相当な額になるから、法隆寺金堂のように飾りの2階と考えるしかないが、構造だけは健全化しなければならない。


0107古町03上階01 0107古町03上階03奥の部屋01 0107古町03上階02天井01


0107古町01外観02隣家との取り合い01 0107古町03上階04床の間01


 もう一つの懸念は、建物が隣家(空き家)との二戸一になっていて、改修する場合、隣家の許可を得る必要があることだ。わたしたち夫婦のセカンドハウスとしては、美容室だった隣家ぐらいのサイズでも十分だから、こちらを借家することも考えた方がいいかもしれない。撤去の問題は、さらに裏の増築ハナレの方が大きかった。昭和の増築は明らかだが、再利用すると言っても難しい。相当な面積があり、この撤去費も相当な額になるだろう。大家が撤去してくれるなら有難いが、当方が撤去するならば不動産購入費を減額していただかねば・・・と思って昨日交渉したが、いまの額(2.5)が限度であると言われた。減価償却などで建築の不動産価値は0円となるので、土地代が2.5となる。215.26坪。0.011/坪。

パリにて

 すでに述べたように、外からみれば、うだつ(袖壁)を上げてこそいないが、見栄えの良い建物である。斜め対面には本陣もあって、町並み保全上の存在意義も大きい。岡山県の保全地区なのだから、県が不動産を買って、健全な状態まで修復すべき歴史的建造物だと思う。これをわたし一人で土地の購入、修復再生まで行うと、経費は「20から」だとMさんは現場で口にした。なんだ、道草と変わらないじゃないか。否、道草は「21から下」への交渉が可能なので、古町より実質は安くなるだろう。ただ、地政学的には大原がはるかに優れている。


0107古町04増築02 0107古町04増築01 増築部分


 その後もう1軒、古い空き家をみた。内部から見上げると、屋根にできた穴の向こうに青空が映り、その真下の床は腐りきっている。こちらの再生はさらにやっかいになりそうだ。あきらめて、国道沿いの喫茶レストラン「パリ」に移動した。結婚前に家内の父母と一緒に入って洋食を食べたことが一度だけある昭和の現役遺産だ(丸忠の隣)。カフェオレを注文した。名古屋の老舗と同じで、ラテではなくオレなんですね。そう言えば、マルタ島もオレだった。お洒落な縦長のグラスでオレを毎日飲んだ。
 ここでMさんの所見を改めてうかがった。不要部分の撤去、不安定な構造部分(天井など)の健全化、断熱、バリアフリー等々考え合わせると「20から」と改めて口にされた。当方の予算限度の倍の額である。それでもまだ望みがあるとしたら、撤去額と不動産購入費を相殺するよう業者に依頼することと、事業化・移住・リフォームなどの補助金があることだ。とりあえず、わたしは業者と交渉し、Mさんは補助金の件を問い合わせることになり、3月までに決断しようということになった。

ヴェンチューリ型のファサード保存は可能か

 ロバート・ヴェンチューリ(1925-2018)で行くか、という話を即興的に口にすると、Mさんは敏感な反応を示した。ヴェンチューリは学生時代のスター建築家で、『ラスベガス』 (SD選書 143、1978) 『建築の多様性と対立性 』(同174、1982)という訳書が有名である。前者はまだ奈良の家にあるはずだ。わたしがヴェンチューリで行こうか、と言った意味は、つまり見栄えのよい(うだつのない)ファサードのみ保存して、その内側に別の建築物を建てるか再生するアイデアである。この場合、ファサードは鉄骨で補強し倒れないようにしなければならない。その内側の別構造体で古材を再利用できればいいが、できなければむしろ新しい構造の建物に変わってしまうことになる。カール・ベンクスのやり方は、文化財建造物の解体修理をベースとして、新しい要素を持ち込むものだが、ヴェンチューリ風にやると、ファサードだけ保存して町並み保全には貢献するが、その内側の空間は古民家とは別物になる。このやり方が安くあがるのなら、それもおもしろいと思う。そう簡単ではないだろうけど、ひょっとしたら、この方法しかないかもしれないな。
 次にわたしは、緑のメガネをかけて、これはピーター・クック(1936-)なんだ、と説明した。アーキグラムという前衛建築家集団のリーダーで、アンビルド・アーキテクト(建築を建てない建築家)を標榜していた。ドローイングだけの建築家ということで、むしろ批評家的な側面の強い大学の先生だったが、実際には結構作品を残している。大阪かどこかで、一度講演を聴いたことがある。緑の丸メガネとマフラーをトレードマークにしていた。とくにアーキグラムにいかれていたわけではないけれども、先史・古代の復元にあたっては、わたしもアンビルド・アーキテクトでありたいという想いがあって、緑のメガネをマネしている。増長天には分からないだろう。Mさんはクックにも反応し、クックが建築を学んだロンドンのAAスクールのことを口にされた。ヴェンチューリもクックも、わたしたちが学生時代の大スターである。若い建築家は、もっと別の建築家を好んでいるとばっかり思っていたので、パリで少々驚いた。


《連載情報》雪国の再生古民家をたずねて
(1)十日町市松代 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2753.html
(2)十日町市竹所 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2754.html
(3)智頭町板井原 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2755.html
(4)美作市大原・右手 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2756.html
(5)美作市大原・右手〈学生課題〉 http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2757.html

《関係サイト》
うだつの上がらぬ町家(1)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2767.html
買い物に悩むバースデー(大原・右手の学生課題〈2〉含む)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2758.html
美作の久米屋を訊ねて
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2730.html

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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