fc2ブログ

私はどこに帰りたいのか

ホームレスマインド

 新年開始早々、二日連続で講義をした。10日(水)は1年次以上のオムニバス「人間環境概論」第14回、11日(木)は3年次以上の「歴史遺産保全論」第12回である。例年と内容を変え、少し迷ったが、両者ほぼ同じ講義とした。昨年の上海講演「古民家再生の新基軸ー過疎地に探る居場所のあり方」に手応えを感じており、それを学生に伝えたかった。結果、3年次以上の講義では、BRD(授業内レポート)の平均点は10点満点の9.1点、1年次以上の講義でも8.6点に達した。3年次のレポートの感想欄に「人間の居場所についてコメントしてほしいです」と追記したところ、多種多彩な意見が寄せられた。とくに、毎回真っ先にレポートを提出する学生の感想(以下)には驚かされた。

  学校にいても、一人暮らしの家にいても、実家にいても、地元にいても、
  「帰りたい」と思うことがあります。私はどこに帰りたいのか、と思います。  


バーガー  ただちに思い浮かんだ本がある。学生時代に愛読した知識社会学の名著、バーガー・バーガー・ケルナー『故郷喪失者たち―近代化と日常意識』(1977訳)。現代社会において 「宗教」が衰退し、代わって「科学」が世界を支配し始める。「科学」を絶対神とする近代工業化社会(と官僚制度)によって、人間は「機械の部品」 のような存在であることを強いられる。代替可能なサイボーグと化した現代人。個性は埋没してニュートラルになり、かつての宗教が果たした「拠り所」のない喪失感に苛まれる(この隙間を縫って怪しげな新興宗教が台頭する)。P.L.バーガーらはこのような日常意識を「ホームレスマインド(故郷喪失感)」と呼んだ。現代人は家をもったホームレスであり、帰るべき故郷と居場所を失っている。

お家へ帰ろう

 わたしには帰るべき場所がある。ほかならぬ自分の家だ。職場での仕事を終え、夕刻、アパートに戻って扉をあける。おおきな声で「ただいまぁ」と言うと、リビングから「おかえりぃ」の答えが返ってくる。この瞬間が一日のなかでいちばん幸せかもしれない。夕食の支度をするのはおっくうだが、小さなテーブルに皿を並べて二人で晩酌する時間は至福である。乾杯して呑んで食べてを繰り返し、いつしかソファで眠りに落ちる。わたしは田舎暮らしを指向しているけれども、その場所はどこでもいい。鳥取でも、奈良でも、岡山でも、その他の県でも、不便が過ぎないなら大丈夫だが、大都市だけはいけない。夫婦ともども無理だと感じている。居場所とは地域や空間ではなく、一定の条件なのだと思う。



限られた時間の中で優先すべきこと

 新春から告別式に参列した。ふだんは他人様の葬儀に参列することなどない私が、中国留学同期生の旅立ちを送るために、苦手な東京まで足を運んだ。彼の深刻な病気を知ったのは3年ばかり前であり、一度目の入院を終えて自宅にいたころ電話したら繋がった。どんな生活をしているのか、と問えば、「家族以外の誰とも会わず、ただ部屋に籠って論文を書いている」という。著作集は出さないのか、とも訊いた。「昔のことは何の興味もない。新しいモノを書きたい。まだまだ書き残したものがある」。返す言葉もなかった。奥様のためにも無理せず長生きしてほしいとだけ伝えたが、彼の気持ちは痛いほど分かった。残された時間が限られていることを知っているからだ。わたしも昨年5月に入院して以来、似たような気持ちにかられている。いつまでも同じ生活を続けているのではなく、ある段階できっぱり割り切って、執筆に集中しなければいけない。読んでくれる人は多くはないだろうが、わたしにしか書けないモノがある。できれば田舎暮らしをしながら、そういう生活に移行したいのだが、不動産の問題がやっかいすぎるなら、田舎暮らしを諦めてでも執筆に集中しなければいけないと思っている。残された時間は限られているからだ。

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

魯班13世

Author:魯班13世
--
魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カレンダー
04 | 2024/05 | 06
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR