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ブータン民話絵本の解題(3)

ブログ01Just the way it is


3.カルマ・ツェリン作『じんせい なんて そんなもの』

書名:Just The Way It Is じんせい なんて そんなもの
テキスト: Karma Tsering カルマ・ツェリン
イラスト: Homebasedillustrator  在宅イラストレーター (ウゲン・ドルジ)
出版年: 2021
ISBN:ISBN-978-99980-887-2-6

以下は裏表紙の宣伝文である。

   じいちゃん(アガ)は、ドルジのいちばんの友だちだった。じいちゃんが
   なくなったとき、人生には変化がつきもので、永遠なものなどないことを
   学ばなければならなかった。ドルジはこの真実を受け入れることができる
   のか。はたしてドルジは平穏な気持ちになり、自分の人生をとりもどすこと
   ができるのだろうか?

 本書は2021年11月27日、ブータン王国文学祭「ブータン・エコーズ」プログラムの中で売り出された子ども向けの絵本である。不思議なことに、本書のどこにも出版社が記されていない。著者のカルマ・ツェリン(1977-)は、ハ地区出身の児童文学作家である。彼女はインドのデリー大学シュリラム女子カレッジで社会学を専攻した。2006年に奨学金を得て、ニューヨークの名門コロンビア大学大学院に進学して行政学修士号を取得した。学業を終えたカルマは人道的支援に熱心となり、赤十字インターナショナル・バザーの委員会メンバーとしてボランティア活動に取り組んだ。とりわけタイ赤十字社の活動推進に無私の献身を捧げた功績により、2019年にマハー・チャクリ・シリントーン王女から赤十字感謝勲章を授与されている。受勲の前後から子ども向けの文学作品を立て続けに世に送り出す。①『おくりもの』The Gift, 2018)、②『愛犬カド、ツェチュ祭に行く』Kado Goes to the Tshech, 2019)、③『ただしいこと』The Right Thing, 2020)、④『ギャップ』The Gap, 2021)であり、①と③はタイ語に翻訳され、①は2019年にタイの「幼児向け優良図書」に選ばれている。カルマはこうした童話絵本を書く理由を「おとぎ話の共有」だとして以下のように述べている。

   わたしたちは外国のおとぎ話を読んで育ちました。でも、
   わたしたち自身の物語を(世界と)共有できたらいいなと
   思ったのです。(略)本を通して子供たちに物語を伝え
   れば、価値観を共有することができると思うのです。

 子どもたちが小さな頃に読んだ物語は一生心に残る。世界中の子どもが同じ物語に感化されるならば、その価値観は自ずと肉体化され、大人になっても損なわれることがない。国が離れて接点のない人々に価値観が共有され、平和な世界の基礎になる、と考えたようだ。こうした目的意識のなかで生まれた最新作が、本書『じんせい なんて そんなもの』Just The Way It Is 2021)である。カルマ本人は、本書を著した理由を「亡くなっていった人はいつまでも心の中に残る」ことを主張したかったからだという。しかしながら、読者が読み取るのは「いつまでも心に残る」余韻以上に「無常の受け入れ」ではないだろうか。無常と言えば空であり、空と言えば仏教だが、カルマは仏教について一切語らず、最愛の祖父を失った少年に「無常の受け入れ」を諭す。なにも釈迦や如来や菩薩だけが仏教ではなく、いちばんの友だちだったじいちゃんや、いつでも無限の愛をふりそそぐ母親こそがブッダ(目覚めた人)であり、

  変わらぬものは一つとしてない

という言葉で世の理(ことわり)を伝えようとする。そして、旅立っていった人を想っていつまでも悲しむのではなく、あるがままを受け入れ、前向きに生きていくことを少年に促すのである。こうした「変化」の代表例として、作者は2020年以降のCovid-19パンデミックを例にとり、自らの想いを告白している。

   最近の本は、パンデミックが引き起こした変化に影響されています。
   パンデミックに見舞われ、すべてが変わりました。すべてがおとぎ話では
   ないことに気づかされます。物事は変化しうるし、実際に変化するのです。

 わたしたちは「おとぎ話」の世界に生きているわけではない。いつまでもピーターパンではいられないし、与えられた時間も限られている。本書は、そのことを優しく、暖かく教えてくれる「ブータンのおとぎ話」だという読後感がある。これまでブータンの絵本は何冊も訳してきたが、クンサン・チョデンの作品だけが頭抜けており、他の追随を許さないと感じていた。しかし、今回初めてカルマ・ツェリンの作品に接し、ようやくクンサンの域に近づく絵本作家が現れたと正直思った。和訳本の巻頭にもってくるべきは本書だという想いも芽生え、悩んだのだが、これまでの和訳本の流れを断ち切ることも躊躇われた。いずれにしても、本書の翻訳は素晴らしくやりがいのある仕事になったと感謝している。(安部・脇野・浅川)

《参考サイト》
・Karma Tsering
https://www.booknese.com/author/karma-tsering
・BHUTAN ECHOES. "Teaching Impermanence to Children Through a Book".
https://www.drukyul.org/teaching-impermanence-to-children-through-a-book/



《連載情報》ブータン民話絵本の解題
(1)アシ・ツォメン: 湖のマーメイド 
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2772.html
(2)ギャルポ王とヤンチェン姫 
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2774.html
(3)じんせい なんて そんなもの 
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2773.html

【付記】 3冊のブータン児童文学の翻訳には、2023年4月から12月にかけて安部陸、荻ノ沢日菜子、出見彩花、西山陽菜、脇野至竜が取り組み、その全体を浅川が監訳した。民話解題については、執筆分担者を文末に示している。写真選択などの作業は東将平と尾前輝幸が補佐した。調査時に各種情報をご教示いただいたクンサン・チョデン(Ms.Kunzan Choden)、ケサン・チョデン(Ms.Kezan Choden)、ウゲン・チョデン(Ms.Ugyen Choden)、ドルジ・ノルブ(Mr.Dorji Norbu)の4氏に感謝の気持ちを捧げたい。

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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