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ブータン民話絵本の解題(2)

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2.READブータン作『ギャルポ王とヤンチェン姫』

書名: Sharchog Gyalpo and Ashi Yangchen . ギャルポ王とヤンチェン姫
文章指導: Sonam Deki ソナム・デキ
イラスト指導: Jhana Tshong ジャナ・ツォン
装幀指導: Che Dorji チェ・ドルジ
出版:READ Bhutan(2017) 出版補助金: ジョン・ロバート・グレッグ財団(NYコミュニティ信託内)
印刷:Kuensel C0.Ltd, Thimphu クエンセル株式会社、ティンプー
ISBN-978-99980-887-2-6

READブータンについて
 READとは、Rural Education and Development(農村教育と開発)という非営利組織の略称である。READという四文字が示すように、「読書」に重きをおいて、貧農社会の向上をめざしている。本部はREADグローバルと呼ばれ、合衆国カリフォルニア州サンフランシスコにあるが、南アジアの農村部を活動地域とする。その活動はネパールで始まった。語学教師で教育研究者のアントニア・トニ・ノイバウアーが旅行会社のスタッフとしてアジアを旅していた際、ネパール人のトレッキングガイドが口にした「自分の村にも図書館が欲しい」という一言がREADグローバルの設立のモチーフとなり、1991 年、ネパールのジュンベシ村に最初のREADセンターが設立された。こうしたローカル・コミュニティ・ライブラリーの活動が全国に広がり、2006 年にREADネパールはその革新的アプローチが評価され、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の学習アクセス賞を受賞した。
 ネパールで成功したコミュニティ・ライブラリーのモデルを周辺諸国にも拡大すべく、2008年にはインドとブータンでも事業が開始された。READブータンは情報アクセスの確立、読書文化の構築を基盤に据え、地域住民の協力を得ながら農村コミュニティの変革を目標に掲げている。ブータンはアジアの中で識字率が最も低い国の一つであり、READが最初のセンターを設立するまでは、公共貸出図書館が全国に一ヶ所しかなかったが、現在までに国内 9ヶ所にREADセンターは増えている。READブータンは、農民に農業研修を提供し、子供たちに環境持続可能性プログラムを提供することで、活気に満ちた場所の創出を構想している。トレーニング内容も多様で、識字プログラム (教育省との提携)、読み書きプログラム、コンピューター・リテラシー、女性の健康クラス、コミュニティ・ラジオなどがある。これらの事業は、READブータン事務所の7人のスタッフと、全国9ヶ所のREADセンターでコーディネーターを務める 18 人の図書館員によって運営される。現在も過疎農村地域において子供の読書の啓発活動、パソコン教育をおこない、教育の発展と農村コミュニティの向上をめざしている。また、READブータンは、文化継承活動の一環として、若い有志たちが年配者から民話を採集し、自分たちで文章とイラストを作成して、多くの絵本を出版している。

研究室との係り
 2018年度後期のプロジェクト研究2/4「ヒマラヤの魔女」でREADブータンが制作した民話を2冊翻訳した。1冊は『カブはどのようにしてハにもたらされたのか』、いま1冊は『アケ・ゲム』である。このときはまだ組織との交流はなく、ただブータンで入手した民話絵本を日本で翻訳したにとどまる。翌19年の第8次調査最終日(9月10日)に、パロ空港でREADブータンのスタッフを紹介され、その後、メールでケサン・チョデン所長と交信するようになった。そこからはコロナ禍である。




 3年半たった2022年12月、ブータン調査(第9次)が再開し、 ブータン入りした22日、真っ先に首都ティンプー 郊外にあるREADブータン本部を訪問し、ケサン・チョデン代表との初の面談が実現した。図書館の内外で遊ぶ子どもたちの姿をこの目でみることもできた。じつは、その前日、バンコク最大の規模を誇るクロントイ・スラムを訪問して、シッカ財団の運営するコミュニティ・ライブラリーを視察してきたばかりであり、開発途上国におけるスラムや山間過疎地での地域図書館のあり方に刺激を受けた。ケサン所長に対して、当方から上記2冊の絵本を含む『ラ・ジャ-天の鳥』(2019)などの印刷物を寄贈する一方、今回和訳した『ギャルポ王とヤンチェン姫』の原本等も入手した。その半年余り後に実施した第10次ブータン調査の最終日(2023年9月9日)にはREADブータンを再訪し、最新の報告書『居場所とマイノリティ』(2023)を寄贈した。『居場所とマイノリティ』では、バンコクスラムとともにREADブータンのコミュティ・ライブラリを取り上げている(英訳サマリーあり)。また、『ギャルポ王とヤンチェン姫』を翻訳中だということを伝えた。その成果がようやく印刷物になる最終段階を迎えている。


samケサンチョデンさん (2) samケサンチョデンさん (1)
ケサン・チョデン代表と面談@READブータン、2022年12月


民話『ギャルポ王とヤンチェン姫-ロントンの民話』について
 ブータンの四天王とも称賛されるシャルチョグ・ギャルポ王が身分を隠し、他国の王室に潜入して、自分にふさわしい花嫁を探す物語。ギャルポ王は小さな国の宮殿で働くことになり、9人姉妹の美しい姫たちと出会う。彼は自分の正体を隠すため、ボロ着を纏っていた。ある朝、彼は年長の姫を牧場まで案内するよう命じられる。姫は自分のためにだけ豪華な昼食を用意していたが、ギャルポ王には小麦の粉を与え、彼のサポートに感謝の言葉もない。他の姫たちの振舞いも大同小異だったが、末娘のヤンチェン姫だけは違った。ギャルポを召使としてではなく、自分と対等の人間として扱ったのである。横柄な言動もない。その人柄にギャルポは胸を打たれ、ヤンチェン姫に惹かれていく。しばらくして、王は娘たちにふさわしい9人の結婚相手を宮殿に招く。さて、ギャルポとヤンチェンの恋の行く末や如何に?
 これ以上のネタばらしは控えるけれども、じつは物語そのものが最初から肝心のネタをばらしている。物語を面白く仕上げようと思うなら、ギャルポ王が身分を隠すために敢えてボロ着を纏っていたことは最終盤まで黙っていたほうがいい。最後の最後に、その正体を明かし、読者を驚かせるような演出がないので、民話を読んでいて、次にどうなるのか、という期待感が湧きにくいのである。同じ素材を使って、仮にクンサン・チョデンやカルマ・ツェリンのような作家に執筆を委ね、プロのイラストレータに絵を描いてもらったら、同じ内容の物語でも、ずいぶん変わった体裁になっただろうと思うと残念ではある。しかし、READブータンの場合、若いボランティアたちが年配者から昔話を聞き書きし、自分たちでテキストとイラストを作成し出版することで、地域の文化継承活動に貢献しようとしているので、そうした姿勢を評価しないわけにはいかない。子どもの描く絵がそうであるように、素人の自主制作にはプロが出せない味わいがある。そこを最大の魅力と考えるべき作品である。(荻ノ沢・西山・浅川)

《参考文献》
①「アケ・ゲム」 (Akhey Gyem - A Legend from Haa. 2017)、浅川監訳『ラ・ジャ-天の鳥』(2019)』ASALAB報告書37輯、2019:pp.67-78
②「カブはどのようにしたハにもたらされたのか」(How TURNIPS came to Haa - An etiological tale from Haa. 2017)浅川監訳『ラ・ジャ-天の鳥』(2019)』ASALAB報告書37輯、2019:pp.79-92
③浅川編(2023)『居場所とマイノリティ』ASALAB報告書41輯

《参考サイト》
・ラジャ-天の鳥
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2032.html
・報告書『居場所とマイノリティ』の刊行と関連講演(1)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2685.html

《連載情報》ブータン民話絵本の解題
(1)アシ・ツォメン: 湖のマーメイド 
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2772.html
(2)ギャルポ王とヤンチェン姫 
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2774.html
(3)じんせい なんて そんなもの 
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2773.html

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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