神々への祈り(Ⅶ)

石窟(いわや)発見-仙台の穴薬師
5月3日。東北地方を暴風豪雨が襲った。ワイパーを最速で回転させないと前が見えにくい。そんななか、まずは仙台市宮城野区岩切の東光寺に向かう。周辺には円仁伝説とともに、菅谷磨崖仏、七ヶ浜がある。震災時には間近まで浸水したという。
このあたりには「穴薬師」が多い。以前は磨崖仏と称していたが、近年、東光寺では「石窟群域」が市の指定文化財となった。「石窟」という用語にはドキリとする。石窟寺院というべき宗教施設はインド、スリランカ、アフガン、中国までという印象がある。ただし、考古学者の斉藤忠は韓国や日本の岩窟仏堂や磨崖仏までも「石窟」と呼んでいる。わたしは日本の岩窟・岩陰型仏堂に接し、「石窟」という用語を使う勇気をついにもてなかった。日本の場合、岩窟や岩陰に所在する「仏堂」ではあっても「寺院」ではない。だから、意図的に「岩窟型仏堂」と「石窟寺院」という用語を使いわけできた。ところが、東北地方では、わりと気楽に「石窟」を使っているらしい。「石窟寺院」なら問題もあるが、「石窟」だけならたしかに許容範囲のうちかもしれない。東光寺の石窟には薬師如来や阿弥陀如来を祀り、「穴薬師」という愛称がある。鎌倉~室町時代の開鑿と推定されている。

東光寺に近い利府の穴薬師(いちばん下の写真)は、薬師神社の本殿を正面中央におき、背後の絶壁に小型の石窟を掘っている。今回みていないが、国府の湊であった七ヶ浜には「夜明けの薬師」と呼ばれる有名な石窟がある。七ヶ浜町湊浜砂山の薬師堂である。この一帯では、円仁をあがめる天台僧がひきいる石工集団の活躍が鎌倉期にあったと考えられている。
昼休みを兼ねて、仙台市西郊の「秋保(あきう)石神 ゆめの里」を訪ねた。秋保街道から川崎町に向かっていく国道457号線沿いの静かな山里に、十数年前からアートを愛する人々が移り住み、さまざまな製作活動をしており、「手作りの山里」を愛称とする。訪問者は民芸・陶芸などの手作り体験を楽しめる、という売りの保養地であり、GWは稼ぎ時なのだが、雨は尋常ではない。最初に辿り着いた雑貨屋では庇の屋根が吹き飛ばされていた。2軒めに訪れたのは「石神窯」。東北学院大学を卒業した同年代の考古学者が陶芸をしている窯元で、子どもたちの土産にティーカップを買った。大きくて重いカップだ。すでに衣服は濡れており、対面にあるカフェ「ゆめの森」に入るまでにビショビショになってしまった。

カフェに入ると、ダイアナ・クラールの『ルック・オブ・ラブ』が流れていた。他の女性ボーカルも聴かせてくれたが、クラールに敵う素材はそうそういない。聴けば聴くほど彼我の差が際だってしまう。野菜カレーのセットをいただいた。とりあえず、腹はおさまった。あとは車に暖房をいれて、衣服を乾燥させるしかない。ちなみに、今回のレンタカーツアーでは、車内でアール・クルーの『ソロギター』を午前(往路)、デイブ・ブルーベック4の『タイムアウト』を午後(復路)に聴きけ続けた。アール・クルーのソロギターは繊細で素晴らしい。メセニーの比ではありませんな。 『タイムアウト』は「テイク5」を含むアルバムとして有名だが、わたしは『テイク10』のほうが好きだ。ジム・ホールのギターがあるとないでは大違いだね。
しかし、それにしても、前世紀後半におけるデイブ・ブルーベックとポール・デズモンド、とりわけ後者の評価は低かった。少なくとも、革命の時代の音楽ではなく、左翼系の評論家たちから酷評されていた。ロリンズ、トレーン、ドルフィー、コールマンこそが真のサックス奏者であり、デズモンドなんぞチャラすぎるという評価です。今はちがうでしょうね。デズモンドはカフェでも流せるジャズの古典として愛聴されている。その場合、ホールのギターが欠かせない。J.マリガンとA.ファーマーについても同じことが言えるでしょう。ロリンズは大好きでしたが、ホールを従えようと従えまいと、カフェでは流せない。ベイシーで聴くしかありません。

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