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【講演記録】倉吉の町家と町並み(6)

6.はるかなまち、その未来

 (1)谷口ジローの風景
 わたしたちは本町通りアーケード商店街の報告書を2007年に出しました。その年には東京芸術大学大学院保存修復研究室が倉吉の町並みの見直し調査をおこなって報告書『倉吉市打吹玉川』(2009)が刊行されます。その結果、2010年に重伝建地区が拡張されるのです。アーケードを撤去した重伝建地区に隣接する西町・西仲町・東仲町が重伝建の拡張区としてみとめられたのです(図38)。
 2010年度はわたくしどもも倉吉をフィールドに再始動します。「倉吉重要伝統的建造物群保存地区拡大にむけての実践的研究」が鳥取県環境学術研究費助成事業に採択され、報告書『はるかなまち、その未来』(2011)を刊行します。この報告書は吉川友実さんという学生の卒業論文をもとにしています。吉川さんの論文はとてもレベルが高いものでした。
 このころ倉吉市は谷口ジローの漫画作品『遥かな町へ』の影響もあって「倉吉レトロ」とか「昭和レトロ」に注目する動きが芽生えていました(図39)。わたくしどももアーケード商店街の研究を通して「昭和戦後」という時代に魅力を覚えていましたし、なにより「谷口ジローの風景」についての卒業論文を何年か前に書いた学生もいたものですから、自ずと『遥かな町へ』と町並み研究が絡みあっていったのです。
 谷口ジローのことはよくご存じだと思います。昭和22年生まれの鳥取市出身。故郷の鳥取を舞台にして描いた3部作『父の暦』『遙かな町へ』『魔法の山』がよく知られています。国際的に評価が高い漫画家ですね。『遙かな町へ』はヨーロッパのコミック3大大賞を制覇したはずです。
 『遥かな町へ』のストーリーは以下のようなものです。東京に暮らす倉吉出身の48歳のサラリーマンが気づいたら「スーパーはくと」に乗っていた。「スーパーはくと」に乗って倉吉に着いて、お寺に行くと墓石の前で立ちくらみがして、わあっと倒れてしまう。目が覚めたら中学2年生に戻っているのですね。この作品の「遙かな」という概念は空間的な遠さだけを意味しているのではありません。倉吉は東京から遙か遠い場所にある。それは時間軸を映し出す鏡でもあります。平成の現代社会を象徴するのが東京である一方で、倉吉は昭和の風景を残す故郷です。東京から倉吉に戻ることで、主人公は昭和の世界にタイムスリップしてしまうわけです。


2013倉吉の町家と町並み02配布資料_01


 14歳になった48歳の男性はかつてマドンナだった女子生徒と仲よくなります。かつては全然相手にしてもらえなかったのですが、大人の世界になって随分物知りなので、女子生徒が恋心を抱いたりする。主人公は、自分の父親が家出することを知っています。蒸発する父を上井駅まで追いかけて、出て行かないよう説得するのですが、父は大阪に旅立ちます。
 『遙かな町へ』には倉吉の風景を描くシーンが114コマあります。それはそれは写実的に描かれています。2007年から、その風景コマと実際の景観の写真を比較できるようなデータベースの作成に取り組んできました。2010年は調子にのって、人物も風景写真に納めました。研究室のメンバーが割烹着や背広を着て、さらに地域住民の協力をえて『遙かな町へ』の該当コマそのままのシーンを再現するのです。大学というのは暇なとこだなと思われるかもしれません。結構エネルギーを費やしてこういうことをやっているわけです。おかげで、谷口ジローがどこの風景をどういうふうに使って漫画を描いたのかよく理解できました。

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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